第23話出産祝い

「仲間に?ですか?」


どういうことだ?帰り道に話ながらダンが仲間になりたいと言い出した。


「ほら、ジョンとローラ、ベントとサラ。他のぼっちゃん達とメイドの関係とは違ってお前達の雰囲気は違うってのか、なんか楽しそうなんだよ」


確かにミーシャとはよくキャッキャと笑いながら話している。


「なんかこう、主従関係とかでなく家族みたいな・・・」


どうやら、ダンは屋敷の中で誰とも話さないのが寂しかったらしい。


「お、俺を仲間に入れてくれれば休みの日はどこでも連れてってやれるし、もう少し大きくなれば街だけでなく森とかにも・・・」


森?


やだ早く見たい。


「よし、分かった。俺たちは今日から仲間だ!」


「よっしゃゃゃぁ!」


テレレッテッテッテー♪


熊が仲間に加わった。



「ぼっちゃん、ありがとうな。これからが楽しみだ」


「ダンさん宜しくお願いしますね」


「おぅ、こちらこそ宜しく頼む」


「よーし、次はどこに連れてって貰おうかなぁ」


「次の休みは西側に行ってみようか。中心地と違ってむさ苦しいところだが、おもしろい奴もいるしな」


「へぇ、どんな人?」


「それはまたのお楽しみってやつだ」


「教えろよ~ケチ~っ!」


「楽しみにとっとけよ」


カッカッカっと笑いながら3人で屋敷まで戻った。



(くそっ、アイツら楽しそうだな)


そんな様子を次男のベントが窓から見ていた。


「さ、ベント様。次はこの計算をしてみましょうね」


「はい・・・」




それから時が過ぎ、俺は2歳になりミーシャは15歳で成人となった。


「ミーシャ、成人おめでとう。今日から見習いを卒業して正式にメイドとして働いてもらいますね」


「ありがとうございます奥様。一生懸命頑張りますっ!」


母アイナがミーシャに伝えるとミーシャは嬉しそうにしていた。


(ふんっ、ゲイル様と遊んでいるだけの娘が正式なメイドねぇ。まぁどうでもいいわ)


そんなやり取りをサラが影から見ていたのには誰も気付いていなかった。



ーダンの休日ー


「ぼっちゃん、今日は西側にいってみるぞ」


ダンが休みの日だ。


「一緒に行けなくて残念です」


正式にメイドになったミーシャは今日は一緒に出かけるのが無理のようだ。俺も残念だが、たまには男同士だけってのも悪くない。


「まぁ、女の子が一緒に行ってもあまり楽しくないかもしれんから、そんなに残念がるな。土産も買ってきてやるから」


「分かりましたぁ・・・ 甘いものがいいです」


「おう、任せとけ!」


ちゃっかり甘いものをねだったミーシャに手を振りながら二人で出掛けることに。


「なぁ、ダン。西側には何があるんだ?」


「こっちはな森へ抜ける道なんだ。東側は王都へ抜ける道だな」


ほう、そうなのか。


「だから、冒険者ギルドもあるし、武器屋やポーション屋なんかもあるぞ」


「へぇ」


「この街の近くには薬草とか取れる森や魔物がよく出る森があってな、仕事がたくさんあるから冒険者があちこちからやってくるんだ」


父さん達がディノを倒したことで有名な街になり、冒険者が集まってきて発展してきているそうだ


「そうなんだ」


「それにな、領主様が元冒険者で前代未聞の怪物を倒して拝領した街だろ。冒険者の誰もが憧れる存在がお前さんの父親さんなんだよ。それに聖女様と呼ばれる母親もな。憧れの人が間近に居る街ってやつだ」


なんか、アイドルに会える街みたいなキャッチフレーズだな。それに田舎の元ヤンキー夫妻かと思ってたが、二人とも憧れの存在なのか。


「ダンもその口か?」


「そうだ。ディノは実際に見たことがないが、そりゃでかくてめちゃくちゃ強かったらしい。そんな化け物を1パーティーで倒したなんて英雄だよ、英雄!」


「そっか」


自分の親が皆に憧れられてると聞いてなんだか照れ臭くも嬉しくなる。


「ダンは冒険者だったんだろ?なんでやめたんだ?」


「それはなぁ・・・」


あ、まずいこと聞いたか?


「よくある話よ。仲間の一人が魔物にやられて死んじまったのよ」


「・・・なんかごめん」


「いや、かまわんかまわん。よくある話って言っただろ。冒険者やってりゃこんな話ごろごろしてるわ」


そうなのか・・・冒険者って危険なんだな


「自分で言ってちゃなんだか、これでも結構強いパーティーだったんだぜ」


なんせ熊だからな


「いつもはそんなに苦戦しないオーガだったんだが、その時はかなり苦戦したんだ。数が多かったのもあるんだが、なんせ見たことが無いくらい狂暴だったんだ」


オーガって鬼みたいなやつだっけ?


「あと少しで終わると油断したんだな。影からもう一匹出てきたやつに仲間がバッサリいかれてな。ポーションも尽きてたし、治癒魔法を使えるやつも居なかったから助けてやれなかった」


遠い目で語るダン


「仲間が死んだことで、弔合戦をとも迷ったんだが結局パーティーは解散。他の奴とも組む気にもならず街をフラフラしてたら領主様の屋敷で人を募集しててな。それで雇って貰ったんだ」


そんな悲しい話を憧れの領主様に雇って貰えて嬉しかったとカッカッカと笑いながら話してくれた。


そうだったのか。仲間を亡くすのは辛いだろうに。



「お、着いたぞ、まずはここだ」


武器屋だろうか? 看板に剣と盾、防具の絵が描かれている。


「おい、おやっさんいるか?」


「なんじゃい?ここは子連れで来るような店じゃないぞ。ほら帰った帰っ・・・ 、 お前・・・ダンじゃねーか」


店の奥から出てきたはガチムチの背の低いオヤジだ。


「久しぶりだなおやっさん」


「なんじゃダン、お前さん冒険者に復帰する気になったのか? それよりお前、いつの間に子供が出来たんじゃ?」


「違う違う! 冒険者に復帰もしてないし、俺の子供でもねぇ」


「はぁん?」


「ぼっちゃん、このちっこい毛むくじゃらのおやっさんがドワンだ。ドワーフ族で武器屋をやってる」


おぉ、ドワーフ。元居た世界のアニメとかにも出てきたな。


「お前に毛むくじゃら呼ばわりされたく無いわい! それとぼっちゃんだと?? 誰の子じゃ?」


「領主様の息子だ」


「アーノルドとアイナの? アイツらの子供はもっと大きくなっとると思ってたが?」


「あぁ、3番目の息子だ。すっごいんだぜ」


「すっごいってなんじゃい?それよりアイツらいつの間に3人目が生まれとったんじゃ、ワシゃ知らんかったぞ」


「領主様は忙しいからな。知らせんの忘れてただけじゃねーか?」


「まったくアイツならやりかねんな」


このドワーフのオッサン、うちの両親のことよく知ってそうだな。どんな関係なんだろ?


「ぼっちゃん、このおやっさんは領主様のパーティーで一緒に戦ってたんだ。英雄の一人だな」


「よせやいっ、昔の話だ」


へぇ、このオッサンも同じパーティーの冒険者だったのか。こりゃ、挨拶しとかなきゃな。


「よろちく!」


ゲイルが挨拶をすると、ドワンがフリーズする。


「おい、コイツしゃべったぞ。今いくつだ?」


「2歳になったばかりだ」


「しゃべるの早くねーか?」


「だから言っただろ、すっごいんだって」


「そうかすっごいのか・・・」


なんか良くわからん会話が続く。



「ボウズ、ちょっと待ってろ」


ドワンはそう言った後、奥の方でなんかカチャカチャ探している。


「ほれ、ボウズ!これをお前にやろう」


包丁?にしちゃ長いな。短剣か?


「おやっさん、2歳の子に剣って早く・・・・、こ、これは」


「出産祝いだ。知らせもせん薄情もんに祝いを渡すより、こうやって会いに来てくれた本人に渡す方が筋が通ってるってもんだ」


「し、しかしこの剣・・・」


この剣がどうした?たしかに素人目に見ても美しい短剣だが。


「あぁ、魔剣だ。大人が使うには少し短いがな」


魔剣? 魔剣って何?


「し、しかし早すぎ・・・」


「なぁに、子供ってのはすぐにデカくなる。この歳から剣振ってりゃアーノルドを越える剣士になるぞ。それにお前さんが危なくないように見ててやればいいじゃないか」


「そ、それはそうだが・・・」


「まだ魔法を使えるかわからんが、可能性があるうちに使った方がいいじゃろ。魔剣使いのエイブリック、神速のアーノルド、二人分を一人でこなしてみろ、またディノが出ても一人で倒せるかもしれんぞ。それにアイナの血を引いてるから治癒魔法も使えるかもしれん」


エイブリックって誰?


「おぉ、エイブリック様とアーノルド様を一人で!!!」


ダンのやつ感動して震えてやがる。


てかエイブリックって誰だよ?


「おい、ボウズ。剣はな、使い方によって人を守る物になったり傷付けたりする物になったりするもんだ、どう扱うかはお前さん次第だが、まぁ、アーノルドの子供だし、ダンがこれだけ可愛がってるんだ。心配ないじゃろ」


馬鹿とハサミは使い様ってやつか、ちょっと違うか。


それにダンの驚きようだとずいぶん高い物のようだし、お礼しなきゃな。


「貴重な剣とアドバイスありがとう」


またフリーズするドワン。


「お、おぅ。分かってりゃいいんだ、分かってりゃ・・・・」


あ、しまった。まっいいか。


なんかぶつぶつ言ってるドワンに剣を背負わせて貰う。


「ふむ、ぎり引きずらんか。なんとか持てるな。それにもっとでかくなって剣を使いこなせるようになったら、大人用の剣作ってやるからな」


ドワンもいいやつだね。


「お、おやっさん、今度俺にも魔剣売ってくれよ」


「お前さん魔法使えんじゃろが。ムダじゃムダ」


「くっ!」



落ち込むダンを促し、店を出る。


「しかし、ぼっちゃん。魔剣とは驚いたぜ」


「魔剣って何?」


「あぁ、魔剣ってのは剣に魔法を流すことで色々な効果が使えるようになるんだ。冒険者の憧れだな。魔剣を打てる鍛冶屋が少ないし、値段もべらぼうに高い。運良く買えても使える奴が少ない」

 

ほう、それは凄い剣なのかもしれない。


「例えば火の魔法を魔剣に流せば、火の力を纏った剣になるし、風の魔法を流せば目にも止まらぬようなスピードで使えたりとか使える魔法によって効果は変わる」


「へぇ」


「エイブリック様が使ってたのも魔剣でな。炎を纏った剣を操ってたらしい」


「ちなみにエイブリックって誰?」


「エイブリック様もアーノルド様のパーティーメンバーで英雄の一人だぞ」


同じパーティーの人で魔剣使いか。父のアーノルドは魔剣使えないみたいだし、エイブリックにも会ってみたいな。


「ダンは魔法使えないの」


「魔法はさっぱりだな。冒険者時代は大剣って奴を使ってたぞ。剣以外にも盾としても使えるしな」


「へぇ、重そうだね」


そう、短剣でも2歳の俺には重いのだ。


「力だけは自信があるからな。カッカッカっ」


熊だしな。


「もう一ヶ所行こうかと思ってたんだが、おやっさんとこで時間食ったから今日は帰ろう」


「そうだね」


今日の昼飯は屋敷に戻ってからだ。


西側にある露店の串焼きは魔物の肉が多いらしいからパスした。まだ得体の知れない物を食うのは怖い。


屋敷直前まで帰って来てふと思った。


「ダン、甘いもの買った?」


「いっけね、すっかり忘れてた」


「ミーシャ楽しみにしてるみたいだったから、ごめん忘れた、だけでは済まないと思うよ」


「そうだよな、買いに戻ろう」


その後、昼飯に遅れた二人は揃ってアイナに怒られたのは言うまでもない。




ー 二人が去った後のドワン ー


そうかアイツがアーノルドとアイナの子供か。上の二人はそこそこだったが、アイツはなんとも言えん雰囲気を持ってたな。ダンは気付いてないようだが、オーラみたいなもんが溢れだしとる。こりゃ楽しみになってきたわい。魔剣をどう扱うか早くに見てみたいもんじゃ。


そうじゃ、今からワシの渾身の剣を打たねばな。




すっごいのをな・・・


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