第22話熊が仲間になりたそうに見ている

「なぁ、ミーシャはダンと仲がいいのか?」


「いえ、ほとんど話したことないです」


なんだ、性格を読みきったと思ったけど違うのか。こりゃ、天然で男を落とす才能がありそうだな。


そんなことを考えてると


「待たせたな」


剣を腰に差したダンがやってきた。おぉ、護衛って感じがするね。


「待ってませんよ~。お休みのところありがとうございます」


「じゃ、行くか」


ひょいっと俺を抱き上げて東の方へ歩きだす。


「ぼっちゃま、ほらあれが旦那様がお仕事されてる建物ですよ」


家のすぐ近くに結構大きな建物がある。市役所みたいなもんか?こんなに近いと通勤楽だな。それから10分ほど歩くと露店がたくさん並んでいるところに到着。


主に野菜、肉等といった食材そのものやその場で食べられるようなものが売られている。


へぇ、マルシェって奴だな。


すぐに食べられる店は串肉を焼いている店が多い。いい匂いがあたりに漂っている。そのままプラプラと露店街を歩いているとミーシャが話かけてきた。


「ぼっちゃま、ハチノス食べませんか?」


ハチノス?こんな時間からホルモンを勧めてくるとは渋いな。若い女の子のチョイスじゃないだろぅ。まぁ、キライじゃないからいいけど。


「とっても甘いんですよぉ」


甘い?


「ほら、あれです」


指差された店を見ると、なにやら一口サイズに切られたウェハース?みたいなものが並んでいる。


なんだありゃ?


あぁ、蜂の巣か。肉が焼けた匂いが漂ってるからてっきりホルモンだと思ったわ。ミーシャの感性を疑ってスマン。


「なんだ、あれが食いたいのか? オヤジ、3つくれ」


「あいよっ!」


木皿に蜂の巣を3つ乗せて店のオヤジが渡してきた。


「1つ銅貨3枚だ。それが3つで・・・・、え~っと・・・え~っと・・・全部で銅貨9枚だな」


えらく計算遅いな。この世界は計算苦手な人が普通なんだろうけど。時ソバとかしたら簡単に騙せそうだ。


「ダンさん、これぼっちゃまと私のお金・・・」


「これくらい買ってやるよ。お前まだ見習いで給料ほとんど貰って無いだろう」


おぉ、ダン男前だな。


「す、す、スミマセン」


しかし、こんな小さく切った蜂の巣が1つ銅貨3枚。300円くらいか。結構高いな。天然の蜂の巣かなそれとも養蜂とかしてんだろうか?


「ほれっ」


そんな事を考えてたら毛むくじゃらの指で蜂の巣を口のなかに突っ込まれた。


ムグっ


お、お前、手洗ってるだろうな!?


ムグムグ


「うわっ濃厚だな」


久々に味わう濃厚な甘味。


「?しししし、しゃべった? 今オッサンみたいな・・・」


ヤベっ、とあせってると。


「と~っても甘いですぅ~」


ほころびそうな顔に両手でほっぺを押さえるミーシャ。


「おお、そ、そうか、そりゃ良かったな」


ミーシャの方を見るダン。助かった。ミーシャが機転を利かせて声を出してくれたようだ。


「じゃ、俺も食うか」


ポイっと蜂の巣を口に入れた後にダンは皿を舐める。


コイツ、ハチミツ似合うな。ツボにハチミツ入れて渡したら手で掬って食べそうだな。


「ごっそさん」


舐めた皿を店に返すダン。苦笑いするオヤジ。水瓶とか見当たらないから、もう今日はその皿が使えないのだろう。


ミーシャもちょっと皿を舐めたそうにしていたのは見なかった事にしよう。


更に東に向かって歩くと雑貨や服などの店がある。ここいらは露店じゃなく、ちゃんとした店が並んでるんだな。



「よ、ミーシャちゃん。今日は素通りかい?」


そこそこ大きな店の前で若いにーちゃんが声をかけてきた。食材や雑貨など色々取り扱っているスーパーみたいな店のようだ。屋敷のお使いでここによく買い物にくるらしい。


「今日は買い物じゃないんですよ」


「そうか、残念だな。じゃ、また来てくれよな」


こんな会話がちょくちょく他の店でも交わされる。もしかしてちょっとした有名人?


ダンからミーシャに手を伸ばし、抱っこをせがむ。


コソッ

(ミーシャ、お前人気あるな)


コソッ

(違いますよ~、小さい頃から一人で買い物によく来てたので、知ってる人が多いんですよ)


なるほど、母親が早くに死んだんだっけな。そんなこそこそ会話をしている二人をダンがチラチラ見ていた。



街の中央広場に到着。


へぇ広場にはたくさん人がいるなぁ。

広場は公園みたいな所もあり、ベンチや地面に座って串肉とか食ってる人も多い。


「おい、ミーシャ。昼飯どうするんだ?屋敷に戻ってから食うのか?」


「たまには外で食べてもいいかなぁって思ってお昼ご飯いりませんって言って来ちゃいました」


「そっか、それなら適当になんか買ってくるわ」


「わー、スミマセン」


どうやら色々と見ているうちにお昼近くになってたみたいだ。ダンが見えなくなったのを見計らって


「ミーシャ、さっきは助かったよ」


「なんのことですか?」


「ほら、蜂の巣食った時に思わず声あげたのごまかしてくれただろ」


「え、しゃべっちゃったんですか?」


えっ?


あれも天然だったのか・・・

まぁ、いいや。話題変えよ。


「それよりダンっていいやつだな」


「そうですねぇ、あんなに優しい人だとは知りませんでした」


「そうなのか? 休憩室とかで話す機会くらいあるだろ?」


「ダンさんが他の人と話してるのあんまりみたことないんですよ」


「なんでだろな?すぐ一緒に散歩に行くことにしてくれたし、ずっと抱っこしててくれても嫌な顔ひとつしないし、面倒見も良さそうなんだけどな」


「他の人は分かりませんが、私はちょっと怖かったですよねぇ。ほら、ダンさんって凄く大きいじゃないですか」


「あぁ、デカイな。毛むくじゃらだし」


「そうなんです。なんか熊さんみたいで・・・」


「ミーシャもそう思うか?、蜂の巣食ってる時、似合うなぁって俺も思ってたんだよな」


「ぼっちゃまそれは酷いですぅ」


キャッキャとダンの話で盛り上がってるとダンが大量の串肉を持って帰ってきた。


「おぅ、楽しそうだな。むこうから見たら親子みたいに見えたぞ」


「えっ? ダンさんにもぼっちゃまがお父さんに見えるんですか?」


おいっミーシャ、違うぞ。


「お前、何言ってんだ?ぼっちゃんが親に見えるわけないだろう。お前が母親に見えたってことだ」


「わ、わわわ私が母親ですか?」


「そうだ、お前確かもうすぐ成人だろ?ちょいと早いが子供がいてもおかしく無い年頃だ」


は?何言ってんだ。ミーシャはまだ元の世界だと中学生くらいだぞ。


「確かにもうすぐ15歳ですけど・・・」


「まぁ、お前は小さいし幼く見えるから母親ってのは言い過ぎか?いいところ姉弟ってとこだな」


そうか、この世界の成人って早いんだな。そういや大昔の日本もそうだったかもしれん。なるほど、ミーシャはもうすぐ成人なのか・・・


「さ、好きなの食え、冷めちまうわ」


「あ、お金は・・・」


「串肉くらい遠慮すんな。お前より給料貰ってるからな」


「重ね重ねスイマセン・・・」


「ミーシャ、良いこと教えてやろう。こういう時はスイマセンより、ありがとうの方が嬉しいぞ」


「あ、ありがとうございます」


「そうだ、その方がいいぞ」


カッカッカと嬉しそうに笑うダン


ダン、やっぱり男前だな。熊だけど。


「さーって、どれにするかな?」


串肉を選び始めるダン。まるで獲物を狙ってるかのようだ。しかし、なんの肉だろう?味付けはどれも塩だけみたいだし。


コソッ

(なぁ、ミーシャ、何の肉があるんだ)


コソッ

(羊とか鳥とか豚かオークですね)


オーク? あの二足歩行する豚か。ちょっとパスだな。羊はラム肉でも苦手だったし、ここは鳥一択だな。


コソッ

(俺は鳥が・・・)


「ほれ、ぼっちゃんも食え」


ムグっ


何かの肉を口に押し込まれた。


「臭っ!」


これ羊じゃんかよ~、ラム肉ならなんとか食えるけど、塩で焼いただけのマトンはダメだ。


「ま、まままま又しゃべった?」


「羊のお肉美味しいですぅ」


片手でほっぺを押さえながらムグムグするミーシャ。


「お、おおぅ・・・。それより今ぼっちゃんしゃべんなかったか?」


「そうなんですよ。ぼっちゃまはしゃべり始めるの早かったんですよ。すっごいんですよ」


串焼きをほうばりながら軽く流すミーシャ。意識が肉に傾いているようだ。


「そ、そうか。それにしては子供らしくないしゃべり方というか・・・そっか、すっごいのか。それなら仕方がないな・・・」


納得がいったような、いかないような微妙な表情で豚肉のようなものをかじり始めるダン。


そんなダンをスルーして鶏肉であろう串を掴んで食べ始める。


昔っから焼き鳥好きなんだよねぇ。タレ派と塩派がいるけど、俺は断然塩派だからちょうどいい。


一口串からかじり取る。


「おぉ、旨ぇ!」


結構硬い肉だが地鶏のような濃い味がしててめっぽう旨い。次々と串焼を貪る。


ぽそっ

「ビール飲みたいな」


「・・・・・・・ぼ、ぼ、ぼっちゃん?」


あぁ、またやっちまった。心の声が漏れてしまった


焼き鳥といえばビール。これは真理だ。声が出てしまったのも仕方がない。焼き鳥が悪いのだ。


「ダン、おいちいね!」


・・・


「それに、この串焼の食い方・・・」


「ヨイチョ、ヨイチョ」


慌てて串から手で肉を外して口の中へ


「それに今、ビールって・・・」


もう誤魔化すのは無理かな・・・




「へへへ バレた?」


「うわっ!」


腰を抜かす熊って初めて見たな


「あ、ぼっちゃま。良かったんですか?」


「もう誤魔化すの無理だろ?ダンはいいやつそうだし、もういいかなぁって」


「ぼっちゃまがそう言うなら私は問題ありませんけど・・・」


「みみみ、ミーシャ、どういうことなんだ?」


「えっと・・・」


「俺が話すよ」


ミーシャにした説明をダンにも話した。



「そっか、こりゃ驚いたな」


「ダンを信じて話したんだから、みんなには内緒ね」


「あぁ、勿論だ。・・・しかし、弱ったな」


「どうした?秘密を聞いてビビったのか?」


「これでも冒険者あがりなんだ、驚きはしたがビビることはねぇ」


「じゃあどうした?」


「いや、それがな・・・、それがですね・・・」


ん? なんかモゴモゴしだしたぞ。


「ちゃんとした言葉使いがどうも苦手でな・・・苦手なんですます」


どうやら、人付き合いが苦手とかそういうのではなく、敬語や丁寧な言葉が使えないので屋敷ではあまり皆とは関わらないようにしてたというのが真相のようだ。


「メイド頭のマイヤーさんとかサラとかすぐ小言いうだろ・・・です」


あぁ、確かに。


「じゃ、なんで今日は連れて来てくれたんだ?」


「ミーシャは歳下だし、屋敷にも後から来たから気兼ねなく話せるかなと、それとぼっちゃんにはまだわかんないだろう・・・と思いマシタデス」


そういう訳か。


「そっか、じゃあそんな変なしゃべり方せずにさっきまでと同じでいいぞ」


「いや、そういう訳には・・・」


「ダンの方がずっと歳上だし、俺は領主の息子とはいえ、跡取りってわけでもなさそうだからな。それにお前の敬語は気持ちが悪い」


「そういって貰ったら助かりますです・・・助かる!」


「じゃ、解決だな。今日はありがとうな。そろそろ帰るか」


あれ?なかなかダンが動き出さない。まだショックなのかな?


「そろそろ帰ろうか?」


まだダンが動かない


ミーシャと二人で顔を合わせる


「ミーシャはもっと早くからぼっちゃんのこと分かってたんだよな」


「えぇ、ぼっちゃま付のメイド見習いなので・・・」


「なんか、お前らいつも楽しそうだよな・・・」


・・・・?


「今日も二人で楽しそうだったよな・・・」


?????それが何か?


「お、俺も・・・・・」




熊が仲間になりたそうに見ている


どうしますか?

→仲間にする

→ことわる

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