第3話プロローグ3
はぁ、昼飯でも食うか。
新入社員の予想だにしなかった反応に傷心しつつラーメンをすする部長。
ぶいーん ぶいーん
ん?電話か?
「おう!久しぶり。元気か?」
同期の広瀬からだ。ずいぶんと珍しい奴からの連絡である。
たしか去年、一足先に子会社に出向になり、そこの社長に就任したんだけっけな。
「おう!社長様じゃねーか、10年ぶりか?」
「やめろよ、社長っていったってしがない子会社だろうが。」
「それでも社長は社長だろ。どうした?俺をそっちの会社にヘッドハンティングでもするつもりか?」
「バカ抜かせ!俺様がお前みたいな面倒臭い奴引き抜くか(笑)」
「面倒臭い奴言うな!」
昔、上司に楯突いて不当な評価制度を変えさせ、社内を大揉めさせたことを知っているのだろう。
歳食っても言いにくい冗談を言い合える同期がいるってのはありがたいもんだ。
「出張でこっちに来ててな、空いてるようだったら今晩飲みに行かないか?」
「そうか、今日は偶然にも空いてしまってな、それに飲みたい気分だったからいいぞ」
「じゃあ、昔よく行ってた居酒屋に19時な」
「わかった。19時な」
昔、その居酒屋で仕事のことで広瀬とガンガン言い合ってた頃を思い出す。
脳筋野郎で俺様は!って言葉を地で行く広瀬にソリが合わないと思ってたが、いつの間にか一番付き合いが長い奴になった。
お互い歳食って丸くなったのかも知れんな。
そう思いつつ、嫁さんに晩飯いらないと連絡をした。
「おう!来たか」
「早いね、社長様ってのは暇なのか?」
「バカ抜かせ!俺様は仕事早ぇんだよ」
と、お互い軽くジャブを打ちながら久しぶりに会うライバルに笑顔になった。
仕事の話をそこそこしたところで、広瀬が語りだした。
「聞いてくれよ、俺様の秘書がよぉ、髪の毛を切ってきたから、新しい髪型似合うねって言ったんだよ」
「秘書がいるんだ、さすが社長様だねぇ」
「茶化すなよ! それでよぉ、秘書はなんて言ったと思う?」
さぁ、「良く気がつきましたね」とか?
・・・・
「「それってセクハラです」だってよ。なぁ、髪型誉めたらセクハラなんか?」
愚痴りだす広瀬。
「昔はよぉ、髪の毛切っても気付かないのが失礼ってなもんだったよなぁ」
最近のセクハラの定義はよく分からんが俺でもやらかしそうだな。気を付けよう。
「俺んとこの社員も似たようなもんだよ」
ここ最近の若い社員とのやり取りを思いだして苦い思いになる。話題を変えよう。
「そういや、お前んとこ娘3人だったよな。いいなぁ、俺も娘欲しかったんだよなぁ」
・・・・・
「5人だ」
は?
「何が?」
「だから娘が5人だ」
え?あれから2人も頑張ったのか?
「俺様はよぉ、どうしても息子が欲しかったんだ。だから、4人目が息子になると信じて頑張ったんだよ!」
「4人目が娘で5人目もがんばっちゃったのか?」
「双子だったんだ」
おおぅ・・・
なんて引きの強い奴だ。
「それはおめでとうというか、御愁傷様というか・・・」
「家に居場所がねぇんだよぉぉ」
あぁ、家に女ばっかだとおっさんの居場所無くなるわなぁ
「いやぁ、それでも娘がいるのは幸せじゃないか。可愛いんだろ?」
「可愛いけど、その内誰かに全員取られてしまうんだぞ。お前にその気持ちが解るか?」
うん、解らん。息子なんざ家に居てるかどうかすら解らんのだから。
それから仕事や家庭の愚痴を吐き出してスッキリしたのか、いつもの脳筋野郎に戻った広瀬とまた飲む約束をして帰宅することに。
ちょっと飲み過ぎたかな?
頭が少し痛む。
しかし、ビール2ハイとチューハイ1ハイでこれか。酒も弱くなったもんだ。
「お父さんお帰り」
「ただいま戻りましたよっと」
妻が迎えてくれる。起きて待っていてくれたようだ。
「もう、飲んで来たらイビキがうるさいんですから、居間で寝て下さいね。」
「ヘイヘイ、そうしますよ」
自分では解らないが飲んだ日はことさらイビキがうるさいらしい。
シャワーを浴びて水を一杯飲み、居間で寝る準備をする。明日は休みだし、天気が良ければ釣りにでも行くかな。
そんな事を考えつつ眠りに入る。
しかし、頭が痛いな・・・
一眠りしたところに強烈な頭痛で目が覚める。
ガンガンガンッ
うぉ、誰かに鈍器で頭を殴られてるようだ。頭が割れるっっ
今まで体験した事が無いような激しい痛みが頭を襲う。
二日酔いか?
いや、そんな所の痛みでは無い。
これ、ヤバいやつなんじゃ・・・
これは脳溢血か?
ヤバい、このまま死んでしまうのか
まだ死んだらダメだ・・・
死んじゃダメだ
死んじゃダメだ
死んじゃダメだ
ん?ダメか?
子育ては一段落付いた。家のローンも払い終わってる。会社もそろそろ異動になるので問題無かろう。
息子たちと妻の仲も良い。
自分が居なくなっても3人の内、誰かが面倒見てくれるだろうし、退職金も出るから妻一人くらいの老後の蓄えも問題ない。
心残りは娘が出来なかった分、孫娘に期待してたくらいか。
そうか・・
そうか・・・
もう俺が居なくても大きな問題はないのだな・・・
そうか・・・
こうして黒岩啓太は意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます