第7話 進行する呪い
「やばいですってフロリカさんんんん……」
シルルは、テーブルの上を歩いていた小さな蜘蛛にぱっと舌を伸ばして口に入れたフロリカの口をこじあけ、蜘蛛をつまみ出した。
「あなたは気高き王女殿下ですよ。蜘蛛なんて食べちゃだめです」
シルルの腕を抜け出し、フロリカはぴょんぴょん移動すると、テーブルから飛び降りた。
シルルはその動きを目で追っていた。
もうすぐ期限である一か月がくる。季節は晩秋になり、外はすっかり寒い。寒がりフロリカのために、シルルは早々に暖炉に火を入れて室内を温かくしていた。
フロリカは今でもシルルが出したスープを食べ、バスケットの中で眠るが、スープの具はシルルがスプーンで与えてやらなくてはならない。前のように自分で舌先を伸ばして食べるということをしなくなった。バスケットは寝床として認識しているが、中にしまい込んでいた髪留めや装飾品は外に放り出してしまった。ベッドの中にあると寝心地が悪いらしい。
最近では、室内を歩く蜘蛛や小さな虫を見つけると、とって食べているようだ。
フロリカとしての意識がだいぶ薄れて、カエルになってきている証拠だ。
触れても以前ほどはっきりした感情を読み取れない。喜怒哀楽程度はわかる。あとは、眠気と空腹もわかる。
それでも名を呼べばシルルのもとに跳んでくるし、外出から戻ればシルルの帰りを待ちわびている様子が見られるので、完全にフロリカの意識が消えたとは思っていない。……いや、正直なところ、よくわからない。もともとカエルにそれだけの知能があるのかもしれないし。
フロリカを戻す手がかりはまったくないままである。
――トリス、魔女に嫌われすぎなんだよ……。
過去何かとんでもないことをやらかし、魔女界隈からハブられているらしいことは把握できたが、それがなんなのかまでは怖くて聞き出せなかった。
もっとも、魔女は拗らせた性格の持ち主が多いから、トリスに限らず、ぼっちで行動中の魔女はそれなりにいるようだ。
つまりこの一か月でわかったことは、「トリスはぼっち」ということだった。
そんなこと、ずーっと前から知っている。
――ああああ、お手上げだよもう……。
ぺったん、ぺったんと音をさせて居間の床を移動していくフロリカを見ながら、シルルは深くため息をついた。
人間に戻してあげたかった。
でももう人間だった頃の記憶もないみたいだ。
記憶がないのなら、このままカエルとして生涯を終えても問題ないかな、という気になってきた。
――記憶がなくなっても、ペットとしてフロリカはかわいいしなぁ……。
でもフロリカの金色の髪の毛は見てみたかったなぁと思う。
あの髪飾りはきっと似合う。
それはそれとして、問題は、この国の兵士たちが近いうちに乗り込んでくることだ。
――畑を荒らされたらいやだなあ。
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