第23話 演者そして後悔

高ノ宮side


あたしは暴力

いや

誰かとやり合うことが好きだ


変な意味ではなく単純に拳で語ることだ


なぜそんなものが好きなのかはわからない


ただ一つ言えることは


自分でもわからないくらい

あたしは飢えていた


その飢えをしのぐために

あたしはこの拳を汚した


最初は格闘技といったもので

飢えをしのいでいた


それが楽しくて

あたしは満たされていく


でも足りなかった


人間は満たされれば

次を求める


つまりそれだけでは満たされなくなり

また飢える


あたしはその飢えが早かった


どんなに強くて周りから

ちやほやされていても


この飢えだけは満たされない


あたしはまた飢えている


だからあたしは...


でもあたしは飢えなくなった


満たされていないはずなのに


どうしてだろう


なぜ彼で飢えをしのごうとすると

体が拒絶反応を示す


これでしのいではだめだというふうに


あたしは世間一般的に見れば

「ヤンキー」といわれるものだろうか


この年頃でこんな性格なら仕方がないとは思う


誰も近寄ろうとはしない


表向きは残酷で暴力大好きな女


でも本当のあたしは

ずっと心は檻の中で


本当のあたしがわからないままこのキャラを

演じている


もしかしたらあたしは...


ただ後悔しているだけかも

しれない


自分がした行いを

悔やんで

罪悪感に見舞われて


だからもうこんな気持ちを味わいなくても

味わわなければいけない


もう過去には戻らないのだから。


...


だからあたしは決めた


彼がこんなあたしを助けてくれるなら

この暗い檻から出してくれる日まで


彼を守る


彼を守り続ける


飢えをしのぐのではなく


満たされるために


その日が来るまで


もう彼という言い方をする必要はないのだろう


彼...山崎は

少し変なやつではある


でも恩人だから

その教えに従う


山崎は言っていた


ここに泊めてほしいなら人間関係を持っておけと


普通ならそんなの簡単だ


でもあたしは違う


もともとあたしはそんなものが下手だから


友人とやらが一人も出来た覚えはない


正直諦めている


でもこれを作っておかなければ

泊めてもらえない


山崎が泊めてくれなければ

もうあてがなくなる


いよいよこの体を使う羽目となる


そんなのは嫌だ


この体を誰かもわからない人にけがされるのは

ごめんだ


でもどうすれば...

そんなことを考えていると

ひとりの女性に声を掛けられた


今度の休みにしませんかと


これはチャンスだ


この機会を逃すと次はないと

わかる


だからあたしはそれを承諾した


...あの事件があってから数日がたった


あたしに声を掛けてくる奴は

山崎を除いて2人しかいない


そして今度の休みに

一緒にする人はその二人の内の

一人だ


隠す必要はないか...


その相手は...


「で、明見日さん。ファミレスまで連れてきてなんの用ですか」


あたしは少し警戒している


という言い方に含みがあったからだ


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ?」


!!


顔に出ていたのか?


「あ、すまない。怖がらせてしまったようで」


「畏まらなくてもいいのですよ?もっと砕けた喋り方でも」


「そ、そうかよ。でも本当になんでこんなとこに連れてきたんだよ?」


いつもの調子に戻しているつもりだがこれでよかったのだろうか


「それはですね...」


ゴクリ...


あたしはのどに詰まっている

唾をのむ


「高ノ宮さんと仲良くなりたいからです!」


「は?」


緊張して損した気がするような


少し安心しているとこもある


「あたしと仲良くっても、前のあれ見ただろ?あたしはそんな奴だぞ?」


「それがどうしたんですか?」


「お、お前は自分の評判が落ちるのが怖くないのか⁉」


少し威圧的な態度をとってしまっただろうか


しかし仕方がないことだ


あたしみたいなやつとかかわっていたら


周りからどういう目で見られるのかは見えている


「別に評判くらいどうでもいいですよ?」


評判がどうでもいい?


そんなのは嘘だ


人は誰しも孤立を拒む


だから周りに合わせたりするもの


だから評判がどうでもいいなんて

そんなのは...


「それにしても高ノ宮さんは山崎くんと同じことを言うのですね」


すこし「フフッ」と笑いながら言う


「や、山崎と?」


「ええ山崎くんと」


あいつとあたしが似ているとこなんてない


あいつは優しくけど頼りないやつで

でもどこか強い部分もある

気がする


というだけだ


だからあたしと似ているところなんて

一つもない


「初めて私が山崎くんと会った時でした」


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中学2年生の夏

彼が転校してきました


最初はどこか頼りなさそうな人で

別に声を掛ける必要はないと思ってました


でも加賀城さんが

声を掛けに行ったので


私も適当な理由をつけて話すことにしました


彼は「誰も声を掛けてくれなかったから嬉しい」と言っていました


加賀城さんとは仲良くしていそうだったのですが

正直あのときの私は仲良くする気はありませんでした


そして数か月が経ちました

私は放課後に同じクラスの男子に

「体育館倉庫の整理を手伝ってほしい」

と言われました


その男子は体育委員でまじめで熱血な人でした


私は学級委員だったので断りはしませんでした


でもそれが罠だったとは思いませんでした


放課後

体育館倉庫にいくと

誰もいませんでした


中に入って確認しても誰もいないので

その男子を探しに倉庫から出ようと

した時でした


ドンッという音ともに

急に扉が閉められました


そして同時に足音と扉を閉まる音がしました


最初は先生が外から閉めたのかなと思っていたのですが

足音が近くなってきたため


私は怖くなりました


暗闇のなか

手探りで明かりのスイッチを探しました

ようやく見つけたと思い

明かりをつけると...


そこにはいつもと様子がちがう体育委員の彼がいました


吐息が荒く

いまにも襲い掛かってきそうな目をしました


怖くなり彼がいる入り口のほうとは

逆の壁をドンドンと叩いても誰も気が付いてくれません


ここには少し上に

窓があるだけ


でも彼が少しずつ近づいてくるなかで

なにか土台を見つける暇がありません


絶体絶命の大ピンチでした


このまま彼にぐちゃぐちゃにされて終わる人生なんて

嫌です


でも私は覚悟を決めるしかありませんでした


彼が目の前に迫ってきて私を掴もうと

した時


ガチャっという音が聞こえました


私が恐る恐る目をあけて

扉の方をみるとそこには山崎くんがいました


山崎くんはこの現場を見たとき

一度扉を閉めようとしました


多分あの時は別の解釈をしてしまったのでしょう


でも私はこのチャンスを逃したくなくて


震える声で「助けて」と言いました


届いているか不安になるくらいの声で


その時

閉まりかけていた扉は動きを止めました


そしてまぶしい明かりとともに

再度

扉が開きました


その時の山崎くんは

怯えているのかそれでも助けたいという意思を

感じました


その行動は彼が許しませんでした


彼は私に背を向けると

山崎くんの方へ走り出したのです


山崎くんは私を助けるために

彼を殴りました


でも彼は不意に突かれた拳を食らっても

立ち上がり山崎くんを殴りつけました


そうして何分かたちました


いや

それは体感であって本当は何十秒かもしれません


結果は山崎くんの拳が

偶然彼の顎にヒットして彼は倒れました


私はその後

先生に報告して


一見落着という風に収めたはずでした


けれど次の日

彼の証言で山崎くんが私を襲ったことになっていました


彼は人望や信頼が厚かったので

皆彼の事を信用しました


私も抗議しましたが抵抗むなしく

「あいつに言わせられてんだろ」とか

「かわいそうに」とか

そういうことを皆は言ってくるのです


そしてまた次の日


山崎くんの顔は傷だらけでした

体にもガーゼや絆創膏が無数にありました

机や椅子はなくなっていて

周りはそれを見てニヤニヤと笑っていました


彼は孤独でした

あの加賀城さんですら味方をしようとはしませんでした


山崎くんは私のせいで孤独になった

私はどうすることも出来なかった

山崎くんは私を助けてくれたのに

私は助けてあげられない


私は深い絶望に陥りました


なんにもできなかった後悔

そして周りの人間に怒りを覚えました


誰も味方ではない


私はそれを理解しました


だから私は彼だけの味方でありたい

そう思うようになりました


何日かたった日


今日も山崎くんは傷だらけで

椅子と机は支給されたので

おいてありましたが

椅子には画鋲、机は落書きというには

甘いレベルの事が書いてありました


周りは「今日もあいつ、懲りずに来たぞ」というのが聞こえました


誰も味方ではない

だから誰にも情を入れない


その日からあたしはそう決めました


その日の休み時間


山崎くんは屋上に行きました

教室にいても居場所がないからです


私も屋上に向かいました


屋上の扉を開けたとき

山崎くんはずっと空を眺めていました


どこか泣いているようにも見えました


私は恐る恐る声を掛けました


山崎くんは目が少し濡れているのを

気にして

それを拭ってから

私の声に反応しました


私はまず何もできなかったことについての

謝罪をしました


そう言うと山崎くんは

少し困った表情をして

こう言いました


「明見日さんはなにも悪くない」と


その発言で

私の心の曇りが晴れた

ような感じがしました


けれど山崎くんは私を

いや

誰も信用できない状況にある

そう思いました


だから私はこう言いました

「私を一番信頼できる相手にしてください」と

今考えるとすこし恥ずかしいです


正直

私の考えは甘かったと思います

私のせいでこうなったのに

こんな発言はあまりにも

...ひどいというべきでしょうか


けれど山崎くんは

少し考えた後

「わかった」と言いました


私は彼の優しさに付け込んで


自分を過ちをなかったことに

しようとしたのに


山崎くんはそれをわかっていたはずなのに

承諾してくれた


けれど彼はこうも言いました


「明見日さんは自分の評判が落ちるのが怖くないの」と


結論から言うと

怖くありませんでした


私は山崎くんだけがいれば

そう思っていました


だから私はこう言いました

「私は何も怖くない」と


あの時すでに私は山崎くんの事を...

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「...私は大バカ者です」


「...そうか」


「...こんな話をしてしまってすみません」


高ノ宮は焦った様子を見せる


「い、いやいいんだよ!結構面白い話だったし!」


「...そうですか」


静まり返る空気


高ノ宮がこの状況に耐えれなくなり

話題を振る


「あ!そうだ今日は話したいことがあんだろ?」


明見日の顔も少し元気になる


「そうでしたね。じゃあ質問していいですか?」


「お、いいぜ。なんの質問だよ」


「単刀直入にいいますが、山崎くんの事をどう思っていますか」


「え?」


私はそんな質問が来るとは思っていなかった


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朱華ナツメです(。・∀・)ノ


次回も引き続きsideシリーズです

よろしくお願いします


今回はいつもより長いです


2話分に分けて投稿しようと思っていたのですが

これは一話にまとめたかったのでこのような形となりました


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訂正のお知らせ


明見日さんの一人称が”あたし”になっていたため”私”に訂正しました


すみません


多分ほかにも間違えているところがあるかもです

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