#34『バーチャル美少女、彷徨う』

――莉音は、兄がリアル受肉したこと以外のすべてを美玖と円華に伝えていた。

 自分の家のこと。

 その家のせいで結月は心に深い傷を負い、引き篭もりになってしまったこと。

 そして結月を追い込んだのが、あの母親だということを。


 2人は莉音の話を最後まで一言も口を挟まずに聞いていた。語られた真相が、2人の想像を絶するものだったから。

 だが、莉音がそれを話し終えるのとほぼ同時に、美玖は口を開いた。


「……あの子を探さないと」


 今の結月をひとりにしては置けなかった。こんなことを聞いてしまったら、尚更だ。

 でも、もうとっくに結月の姿は見えなくなっていた。


「でも、探すって言ったって、どこに……?」


 円華が当然の疑問を口にする。

 どこに向かったかなんて、全く見当がつかなかった。


「莉音ちゃん……あの子が行きそうなところとかに、心当たりはないの?」


 美玖がそう問うも、莉音は力無く首を横に振った。


「分かりません……お姉ちゃん、そもそも滅多に外に出ることなんてないから。向かいそうな場所なんて、どこも……」


「そっか……」


 しかし、だからといってこんなところで手をこまねいている訳にもいかない。

 

「とりあえず、家に戻ってみましょう。もしかしたら戻ってるかもしれないし」


「はい、そうですね……」


 3人は、結月の部屋へと向かう。

 だがそこには結局、結月は戻ってきていなかった。

 その事実が、美玖をさらに焦らせる。


 ――結月ちゃん……一体どこに行ったの……?

 

◇◇◇◇


 俺は結局あの場から逃げ出し……それからずっとあてもなく歩き続けていた。


 美玖と円華さんには悪いことをしたな……。

 でも、あの場にあれ以上いることはできなかった。お前は結局どこまで行ってもダメ人間なのだと、現実を突きつけられたかのようで……。


 そう。

 俺は、気付いてしまったのだ。

 ここのところ色々なことがあって、何か変われたような気がしていたけど――それはただのまやかしで、ダメな俺のまま、結局何も変われてなかったのだということを。

 親にすらも見放された、ひとりぼっちな人間だったということを……。


 当てのないまま彷徨い歩いていると、いつしか俺は、とある場所に辿り着いていた。

 そこは、家の近くの見知った道路だった。

 いつのまにか、家の近くにまで戻ってきてしまっていたらしい。


 ……ってか、ここって。


 美玖に初めて話しかけられた場所じゃんか。

 

 そういえばあの時って……美玖にいきなり声をかけられて、めっちゃキョドっちまったんだっけ……。


「……結月ちゃん?」


 そうそう、こんな感じで……。


 って、え――?


 声がした方に振り返ると――そこには、美玖がいた。

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