#31『バーチャル美少女、親子参観する』
「――『瑠璃川ラピス×不知火結月コラボ記念親子参観』です!」
そう。
これが円華さんが提案した企画。
曰く、『お互いのリスナーに2人の関係を知ってもらうには、私たちのことを丸ごと知ってもらった方が良い』とのことで。
その結果が、お互いの
にしても……円華さんもこうやって配信に参加しても平気な人だったんだな。あまり前に出たがらない人のような気がしていたから、なんか意外だった。
とはいえ――親子参観と言いつつも、配信内容そのものが何か特別な訳ではない。
クイズというのも、別に本格的なものではない。好きなものとか、趣味とか、そういうお互いの日常を切り取ったものをクイズにして、それを答えていくだけだ。
でも、これがリスナーから見れば中々に新鮮だったらしい。
こんなふうにイラストレーターがガッツリ企画に参加することも珍しいだろうし、普段の俺たちの関係性をそのままお送りすることが出来たため、それが俺の思っていた以上にリスナーの好評を得たようだった。
「――次は私、marmeloからの問題です。瑠璃川ラピスの最近ハマっているゲームを答えよ!」
「って、marmeloママ!? なんで知ってるの!?」
ピンポンッ――!
「早いっ! それでは不知火結月さん、お答えください!」
「プロジェクト・ワールド!」
「正解!」
「ちなみに一番好きなキャラクターは、赤柳秋也。これ豆な」
「うぅ……まだ配信で一度も言ったことなかったのに……」
――そして俺自身も、なんだかんだでこの配信を楽しんでいた。
ここ最近はチャンネル登録者数を伸ばすためにずっと気を揉んでいたからな。こんなふうに伸び伸びと配信出来るのが久しぶりだったからかもしれない。
あるいは、不知火結月と瑠璃川ラピスがコラボすることを、俺自身が心待ちにしていた結果なのかもしれなかった。
いずれにせよ……俺はこの配信が出来て、本当に良かったと思うのだった。
◇◇◇◇
結局、配信は終始好評のまま幕を閉じた。
荷物をまとめてスタジオを出た俺は、建物の出口で大きく伸びをする。
「んんっ……くぅー……終わったぁ……」
……どうしてだろうか。
普段よりも、なんとも言えない達成感のようなものに満たされていた。
「なんか、あっという間だったね」
美玖が、そうちょっと名残惜しそうに呟く。
「ああ……そうだな」
確かに……あっという間だった。
正直、1ヶ月ものあいだずっと苦労を重ねてようやく勝ち取ったものが……こんなにちっぽけなものだったのかと、そういう思いもある。
でも、ちっぽけだからこそ、苦労するだけの価値があったのだと。
そんな気もしていた。
「皆さん。今日はこの後、予定ありますか?」
莉音が、俺を含めたみんなにそう尋ねていた。
「私は特にないよ? 円華ちゃんは?」
「私も別に暇だけど」
「だったら……この後みんなで打ち上げしませんか?」
莉音のそんな提案に、美玖も円華さんも頷いていた。
「いいね。でもどこでやるの?」
「あ、じゃあ良かったら……今からお姉ちゃんの家に行くのはどうですか? ここからならそんなに遠くないですし」
……おい。
勝手になんて提案しやがる。
すぐにでも拒否しようかとも思ったのだが、2人は案外乗り気だった。
「お、良いね! 行ってみたい。美玖は?」
「私もちょっと興味あるかな。まだ結月ちゃんの家にはお邪魔したことないし」
「本当ですか、良かった! じゃあ、案内しますね。こっちです――」
そして、莉音は2人を先導するように歩き始めた。
だが、その足は――直ぐに動きを止める。
そして、進行方向のその先にある何かを、莉音は怯えるような目つきで見つめていた。
「――え? なんで……?」
ん?
どうしたんだ……?
俺は莉音の見つめる先にあるものを確認した。
そこに居たのは――。
「……どうしたの? 2人とも」
美玖は不自然に立ち止まる俺と莉音を心配そうに見る。
だけど、今の俺には……美玖に気を回している余裕は無かった。
なんで……。
なんであの人が……。
――やがて、そこに居た人物は、俺たちの存在に気付きこちらに向かってくる。
その人物は、上品で物腰の柔らかそうな――だけどどこか冷たい雰囲気を併せ持つ……中年の女性だった。
そして女性は、莉音に向かって言葉を放った。
「――莉音、こんなところで何をやってるのです?」
莉音はその女性の声怯えるように、きゅっと唇を結ぶ。
「え? この人って……」
美玖は俺たちの反応の理由が分からず、ただ俺と莉音のことを交互に見比べる。
だけど俺は、そんな美玖のことを気にすることも出来ずに――ほとんど独り言のように呟いた。
「母さん――」
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