#30『バーチャル美少女、コラボする』

 そんな訳で、無事に美玖――瑠璃川ラピスとコラボすることが決定したのだが……。


「……どんなコラボをするのか、それが問題だ」


 ……そうなのだ。

 肝心のコラボ内容が決まっていなかったのだ。

 あれだけ大騒動を起こした上で、満を辞してのコラボなのだ。普通の雑談配信、という訳にもいかないだろう。


 俺は美玖と適当な店に集まって、お互いにアイデアを出し合っていた。

 

「美玖は何か良い案はないの?」


 俺が美玖に丸投げすると、美玖は困ったように眉を顰めた。


「うーん、いざ考えてみると思ってたよりも難しいね……。初絡みだから、私たちの関係が端的に表せるものがあれば良いんだろうけど……」


 俺たちの関係が端的に表せるもの、か……。

 字面だけで見たら簡単そうなんだけどな。なんせ俺たちのリアルを曝け出せば良いだけなのだから。でもそれを……Vtuberというフォーマットが邪魔をしているのだ。

 Vtuberというフォーマットを崩さず、俺たちの関係性を伝える。

 そう都合のいい配信なんて出来るもんなのかね――。


 ――むぎゅー。


 ――ところで。

 さっきからずっと気になってたんだが。


「……なんでさっきからずっと俺に抱きついてるの? 円華さん」


 実を言うと、ここに集まっていたのは、俺と美玖だけではなかった。

 美玖の他に、莉音と、円華さん。

 俺を含めて計4人でテーブルを囲んでいた。


 まあ、莉音が付いてくるのは毎度のことだから良いとして……なんで円華さんまでいるの? 

 てか、なんで抱きついてるの?


「だって結月ちゃんスベスベでプニプニで、抱き心地がいいんだもん」

 

「分かります! お姉ちゃんって意外とモチ肌なんですよね!」


 おい莉音。共感するんじゃない。


「とりあえず苦しいんで、離れてくれませんか?」


「えぇ……」


 俺の抗議を受けて、渋々離れる円華さん。


「結月ちゃんのいけず……」


 そんな恨めしそうな顔してもダメなもんはダメだからね? いやまぁ、抱きつかれてるこっちも良い匂いがしたし、悪い気はしなかったけど!


「だいたい、なんでここに円華さんがいるんですか?」

 

「え……結月ちゃん、まさか私を除け者にしたいの……?」


 いやそうではなく。

 ここは不知火結月と瑠璃川ラピスのコラボ企画を考える会な訳で。


「円華さんって今回の件には、直接は関係なくないですか?」


 すると円華さんは唇をへの字に曲げながら、


「関係あるよ」


「え、なんで?」


「だって、一体誰のお陰で結月ちゃんが登録者数50万人に到達出来たと思ってるのさ」


「う……」


 まぁ、それを言われると確かに……否定は出来ない……。

 実際、円華さんが動いてくれてなかったら、俺のチャンネルはいまだに49万人止まりだった可能性もある訳で……。


「だから私には、2人の今後を見届ける権利があるのです……!」


 あ、そう……。

 どうやら、円華さんは意地でもここから動くつもりはないようだった。

 まあ、良いか。

 いたところで、何か支障がある訳でもないんだし……。


「じゃあ、聞きますけど」


「うん?」


 俺はせっかくだから、美玖にしたのと同じ質問を、円華さんにも投げかけた。


「円華さんは、コラボ企画……どんなものにしたら良いと思いますか?」


「そんなの、普段のラピスと結月ちゃんの日常をお送りすれば良いじゃない。きっと需要あると思うけど」


 だから、それが出来れば苦労しないのであって。


「それはそうかもしれないけど……もっとこう……キャッチーな何かが欲しいというか……」


「なるほどね、キャッチーさか……」


 円華さんは、少しだけ考える素振りを見せたあと、


「……だったら、私に良い案があるよ」


「良い案、ですか……?」


「うん」


 そして、円華さんは……何故か莉音のほうへと視線を向けた。


「だけどそれをするには、私と……莉音ちゃんの協力が必要だけどね」


「え……? 私ですか!?」


 莉音も自分に話題が向かうことになるとは思ってなかったようで、露骨にびっくりした声を上げる。


 っていうか、円華さんと莉音の協力が必要……?

 発案者の円華さんはともかくとして、莉音まで……。


 一体円華さんは、何をするつもりでいるんだ……?


◇◇◇◇


 ――そして、コラボ配信当日。


「どうもー、おつラピ! 瑠璃川ラピスです! そして!」


「どうも……不知火結月です」


 いよいよコラボ配信がスタートし、盛り上がるリスナーたち。

 普段の俺の配信の比じゃないくらい人が集まっていて――その熱量に思わず押しつぶされそうになる。

 やっぱり、瑠璃川ラピスって人気なんだな……。

 こうして一緒に配信を行うと、それがよりリアルに感じ取れた。


 だが……今回のコラボ配信は、これだけではなかった。

 美玖――瑠璃川ラピスが、間髪入れずにこう続ける。


「実は……今回の配信、他にもゲストをお呼びしております!」


 ラピスのそんな言葉に、コメントの書き込みは一層加速する。


「では、お呼びしましょう! 二人とも、どうぞ――!」


 そしてラピスの呼び方に応じて、2人が声を発した。


「皆さんこんにちは、marmeloと――」


「――霧島れおんです」


 2人の自己紹介を聞き届けてから――ラピスはリスナーたちに告げた。


「はい、ということで……今回の企画を発表します! 名づけて、『瑠璃川ラピス×不知火結月コラボ記念親子参観』です――!」

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