#26『バーチャル美少女、仕掛ける』
重大発表配信をしたその翌日から、俺の正体についてネット上ではさまざまな憶測が飛び交っていた。
『あの美少女って、やっぱりVtuberの不知火結月だったのか?』
『いや、違うだろ。不知火結月はバ美肉だから中身は男であって』
『バ美肉ってのは公式がそう言ってるだけなのだが』
SNSでは俺と例の美少女との関係性について様々な議論が繰り広げられていた。
それだけではなく、某掲示板には専用のスレが建てられ、まとめサイトにまで取り上げられている。
元々あのインタビュー映像がバズっていただけあって、ネット上に広がるのは早かった。
あのインタビュー映像にはコミュ障美少女っていうキャッチーさがあったからな。まぁ……本人からすれば、そんなバズり方をするのは少々不本意ではあったのだが、今は結果オーライというということにしよう。
そして、そうなると当然、週末に予定されている配信の注目は高まる訳で……。
チャンネル登録者数は加速度的に伸びていた。
「うわ、すご……」
「凄いです、お姉さん……!」
俺のチャンネル登録者数を見た莉音と楓ちゃんの2人が、感嘆の息を漏らす。
「そうだろそうだろ。もっと褒めても良いんだぞ?」
「……でも、日曜日のバーゲンナッツ配信でも何か仕掛けるつもりなんだよね? 一体何を企んでるわけ?」
さすが莉音。よくぞ聞いてくれた。
「これだけ話題になれば、視聴者は通常の配信でも何らかの情報が出てくることを期待するはずだ。だったら、だったら奴らの望むものを提供してやればいい」
「望むもの……?」
「それには莉音と楓ちゃん、お前らにも協力してもらう必要がある」
要するに連中は、俺が例の美少女だという確信が欲しいのだ。
だったら逆にこっちからそうだと信じられる何かを提供してやれば良い。
具体的には、俺が女子であることの匂わせだ。
女らしい仕草や言動をすれば、彼らの疑念は高まる。それを、少しずつ小出しにしていけば良いのだ。
女らしい仕草は、莉音と楓ちゃんに指導してもらった。
2人とも現役の女子高生だからな。これ以上の指南役はいないだろう。
事実、俺のそんな配信を見た視聴者たちは、次第に俺が女であること――ひいてはあのインタビューの美少女が俺であることを日に日に確信しているようだった。
そして、極めつけは……日曜日のバーゲンナッツ配信だ。
正直、バーゲンナッツを順番に食べ比べていくだけの普通の配信なのだが……重要なのはそこではない。
◇◇◇◇
「じゃあ、次は……このチョコレートファッジを――」
――と、俺が言い始めたところで、家の鍵がガチャリと開き、中に誰かが入ってくる。
と言っても、俺の家に勝手に入ってくる奴なんて1人しかいないが。
「――よーっす、お姉ちゃん。頼まれたもの買ってきたよー」
中に入ってきた人物――莉音は、配信中の俺の姿を見つけてギョッとする。
「え!? 配信もう始めてたの? やるなら言ってよ……!」
莉音には、配信予定時間を1時間遅く教えていたのだ。そして、買い出しを頼んでいた――ちょうど配信中に莉音がやって来るように。
そして予想通り――莉音の声は、配信にバッチリ乗っていた。
突然の乱入者に、騒ぎ出すコメント欄。
『結月って妹さんがいたのか?』
『タイミング悪w』
『ていうか、いまお姉ちゃんって言わなかったか?』
思っていた通りのコメントが流れてきたことで、俺は内心ほくそ笑む。
よし。
計画通り――。
◇◇◇◇
配信終了後、俺はすぐにエゴサして視聴者の反応を伺う。
「よし、ちゃんと話題になってるな……」
バーゲンナッツの食べ過ぎで頭痛のする頭を、手で押さえながらその様子を眺める。
莉音が乱入して俺のことを『お姉ちゃん』と口走ったことで、不知火結月=リアル美少女説が、より濃厚になっているようだった。
……てか、バーゲンナッツ全種類は流石にやり過ぎたな……。
流石に寒気がする。
「もう……お姉ちゃんのアホ……」
莉音は、自分がダシに使われたことに大変ご立腹のようだった。
「悪い悪い。でも、あらかじめ言ってたら自然なリアクションを引き出せなかっただろ? 敵を欺くにはまず味方からって言うじゃん」
「いや、別に視聴者は敵じゃないでしょ……」
何だよ……いちいち細かい奴だな……。
「……とにかく、ここまでやれば話題性に関しては十分だ。あとは、普段通りに配信を続けて登録者が増えるのを見守るしかない」
もう全く不安がないかと言われたら、素直にイエスとは言い切れないが……。
でも心配ない。
この増加ペースなら、約束の日までには50万人に到達出来るはず――。
◇◇◇◇
――そして、月日は流れ。
約束の日の当日。
俺の予想していた通り、登録者数は順調に伸びていき――そして、現在。
チャンネル登録者数――49万人。
……あれれ〜? おかしいぞ〜?
あと1万人ほど、足りないんですけど……?
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