#25『バーチャル美少女、暴露する』

「――あー、あー、始まってるか?」


 俺がそんな言葉を投げかけると、画面上のコメント欄が俄かに加速する。


『OK』


『始まってるぞ』


『みてるよー』


 どう考えても、普段よりもコメント数が多かった。

 だが、それもそのはずだ。

 同接数が普段の比じゃないくらいに膨れ上がっていたからだ。つまりそれは、普段の視聴者以外の注目も高まっている証拠だった。


「おー、すげぇ盛り上がってるな……こんなに盛り上がってたら流石の俺も緊張しちゃうって」


 俺がそう呟くと、コメント欄に『頑張れ』の文字が飛び交う。

 俺は、コホンとひとつ咳払いをする。


「じゃあ、仕切り直して――」


 ここまでの注目を集めているのには、理由が二つある。

 まず一つ目が、先日俺が宣言した瑠璃川ラピスとのコラボ発言だ。それのおかげで瑠璃川ラピスのファンやステラノーツの箱推し勢からの注目を少なからず集めているのだ。

 そしてもうひとつが――、


「――タイトルにもあるように、今日は重大な発表をしようと思って、この配信を決めました」


 ――重大発表を行う。

 この配信に対して、事前にそんな告知をしておいたのだ。

 最近いろいろと話題に事欠かなかった俺が突然そんな配信を始めるのだ。そうすれば当然、注目が集まるに決まっている。


 ――よし。

 ここまでは想定通り。

 あとは――段取り通りに配信をすれば――。

 俺は、この前の莉音との会話を思い出していた――。


◇◇◇◇

 

「――ええっ!? 正体をバラすの!?」


 俺の言葉があまりにも予想外だったのか、莉音はひん剥かれたように目を見開いていた。

 莉音がそう言う反応するのも、分かるといえば分かる。

 だが……。


「別に顔出し配信しようって訳じゃない。結構前にテレビに出演したことがあっただろ」


 俺が突然リアル受肉したあの日……。

 運悪くテレビの取材陣に捕まって、全国に醜態を晒してしまった、あの事件だ。

 あのときのことを――。


「あのインタビューに答えた女が、俺だったってことをバラす」


「お姉ちゃん……いま、自分が何言ってるか分かってる?」


 もちろん、分かってない訳ではない。


「リスクは承知の上だ」


「承知の上って……そんなことしたら、お姉ちゃんのことが特定されてもおかしくないんだよ? そうなったらヤバいでしょ!」


 実際、美玖には簡単に特定されたしな……。

 今後は外出する時に、かなり最新の注意を払わないといけなくなるかもしれない。


「まあ……でも、なんとかなんだろ。俺、ほとんど家出ないし。引きこもりだし」


「そういう問題かなぁ……?」


 でも、仕方ないだろ……。

 短期間で登録者数を稼ぐなら、それくらいのことしないと……。


「ちなみに、いきなりバラすつもりはないぞ。バラすだけでもインパクトは強いかもしれないけど……それ1発に賭けるだけじゃ、50万人越えできるかは運ゲーになっちまうからな」


「え? じゃあ、どうするの……?」


 そんな莉音の当然の疑問に、俺は答えた。


「そうだな、まずは――」


◇◇◇◇


「――じゃあ、早速だけどその発表をお伝えしようと思います」


『待ってた』


『なんだろう』


『ゴクリ……』


 コメントが俺の次の言葉を心待ちににしているのを見て、俺は軽く深呼吸をする。

 そして、俺は自らの言葉を紡いだ。


「なんと! 今度の日曜日にバーゲンナッツ全種類食べ比べ配信をしたいと思います! はい、パチパチー」


『は?』


『バーゲンナッツ?』


『つまんね』


「――……それと、もし1ヶ月後に登録者数50万人を超えたら、俺の正体に関わる重大な秘密を暴露しようと思っています」


『ん……?』


『今なんて言った?』


『重大な秘密?』


 俺の突然放った言葉に対し、コメント欄は明らかに混乱した様相を呈す。

 そして俺は、そこに爆弾を投下するかのように、続け様に言い放った。


「はっはっは、みんな困ってるな。……そんなみんなにひとつだけ『ヒント』をあげようじゃないか。ちょっと前に俺そっくりの女の子がテレビに映ったって話題になったよな? あの『女の子』に関係することだよ」


 これだけ言えば、察しの良い視聴者ならすぐに勘付くだろう。

 あの時テレビに映った少女が、実は『不知火結月』なんじゃないかと。

 そしてそれはつまり――『不知火結月』は、女なんじゃないかと。


「さあ、分かったか? 分かったらお前ら、さっさとチャンネル登録をするんだ」


 依然混乱を続けるコメント欄を前に、俺は敢えて平常運転に戻って言葉を続ける。


「あ、バーゲンナッツ全種類食べ比べも本当にするから、みんな来てくれよな――!」


◇◇◇◇


 俺の配信の一部始終を見ていた莉音が、ポツリと漏らす。


「良かったのかなぁ、これで……」


 莉音の奴、心配し過ぎだろ。

 俺は莉音の頭を、軽くぽんぽんと撫でた。


「もうやっちまったもんはしょうがないだろ。それに……仮に俺がこれで破滅したとしても、一家のお荷物が勝手に自滅するだけなんだぞ? お前には関係ない話だろ」


「そんな言い方……」


 莉音はまだ何かを言いたそうだったが、俺はそれを手で制し、話を続けた。


「って言っても、まだこれで終わりじゃないからな。あくまでゴールは登録者数50万人だ。今週末のバーゲンナッツ配信……そこでも仕掛けるぞ――」

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