#24『バーチャル美少女、ひらめく』

「――はぁ〜、アイス美味え……」


 俺は楓ちゃんの買ってきてくれたアイスにさっそく舌鼓を打つ。

 楓ちゃんが来てくれなければ、またしても外界に繰り出さなければいけなくなるところだったから、本当にグッジョブだ。


「ねー。ハーゲンナッツってところも分かってるわ」


 そして、当然のようにアイスを食べている莉音。俺のとっておきを食べたんだから、お前は食う資格なくね?

 ……ということを莉音に言おうとしたんだが、そしたら楓ちゃんが、


『大丈夫ですよ、ちゃんと莉音ちゃんの分も買ってきつありますから』


 その優しさがにくいけど、今はちょっと釈然としない。

 まあ、その優しさがあってこその楓ちゃんだから、俺も強く言うことは出来ないのだが。

 というか、そもそも俺には楓ちゃんに対して負い目がある。


「……悪いね、楓ちゃん。せっかく弟子にしたのに、まだろくに修行もつけてあげられなくて」


 ……そうなのだ。

 楓ちゃんはあれ以来、定期的に来てくれるようになったが、いまだに師匠らしいことは何も出来ていない。

 まあ、ここ最近、色んなことがあったからなぁ……それどころじゃなかったというか、なんというか……。


「もうひと段落したら時間作るから、もうちょっと待っててくれ」


「はい、大丈夫です! 待つのは得意なので!」


 やっぱり楓ちゃん、ええ子やなぁー……。


「……ところで、なんか思いついたか、莉音?」


 俺は莉音に、さっきまでの問いを再び投げかける。

 莉音は、食べているアイスを眺めながら言った。


「んー? そうだなぁ……ハーゲンナッツのアイス全種類食べてみた、とかは?」


 ……ダメだこいつ。

 どんだけ食い意地張ってるんだ。

 もうこいつに相談するの、やめようかな。


 すると俺たちの会話を聞いていた楓ちゃんが、 


「何かあったんですか?」


 そういえば、楓ちゃんにはまだ今回のこと全然話してなかったっけ……。

 

 俺は事のあらましを楓ちゃんに説明した。

 俺が瑠璃川ラピスの中の人と友達だということ。

 すったもんだがあって1ヶ月後に登録者数を50万人まで伸ばさなくてはいけなくなったこと。

 ラピスの正体を除いた、思いつく限りの全てをだ。


 俺がひと通りのことを話すと、楓ちゃんは驚くに目を見張っていた。


「え!? お姉さん、ラピスちゃんとお友達なんですか……? すごいです……!」


 いや、食い付くのそこかい。

 ……そういえば、楓ちゃんも結構なVtuberオタクだったな。人気Vtuberの瑠璃川ラピスを知ってるのは当然か。


「まぁ……、今度瑠璃川ラピスに会ったら、サインくれるように頼んでみるよ……」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 ……あー、うん。

 忘れてなければ、ね?


「それで……楓ちゃんのほうは、何か良い案とかはないかな?」


「そうですね……」


 Vtuber事情に俺たちよりも詳しい楓ちゃんなら、何か有効な案を思いついてくれるかもしれない。

 楓ちゃんはひとしきり考えたあと、


「じゃあ、インパクトが重要なら、こういうのはどうですか? スクランブル交差点の真ん中でお布団敷いて寝るんです。その名も……『スクランブル交差点でガチで寝てみた』です!」


 ……あー、うん。

 確実に炎上しそう。

 というか、そもそもVtuber向けの企画ではないよね、それ。


「……ごめん、申し訳ないけど却下かな」


「そうですか……」


 しょんぼりする楓ちゃん。

 やめろ。そんな顔するな。まるで俺が悪いことしてるみたいじゃんか。


 それにしても……なかなか良い案が出ないもんだな。

 三人よれば文殊の知恵とはいうが、結局のところは、その三人次第ということなのかもしれなかった。


「はぁ……どうしたもんかな……」


 正直、かなり手詰まりだ。

 もちろん、勝負はあと1カ月ある。まだ猶予自体は残っている。

 だが、登録者数ってのは一夕一朝でどうにかならないのも確かだ。

 だから、早く手を打てることに、越したことはないのだが……。


「私、思ったんだけどさ」


 と、莉音。


「インパクトも重要かもしれないけどさ、やっぱり登録者を定着させるなら、お姉ちゃんのチャンネルならではの何かじゃないといけないんじゃない?」


 ……まあ、確かに一理ある。

 仮に登録者数50万人を達成出来たとしても、その後すぐに50万人を割ることになりましたってことになったら、流石に格好がつかないからな……。


「俺のチャンネルでならでは何か、か……」


 ……俺のチャンネルでしか出来ない何か。

 俺がほかのVtuberと違うことと言えば。

 有名イラストレーターの『霧島れおん』がキャラデザママであること。

 バ美肉Vtuberを名乗っていること。

 そして理由は分からないが……俺自身が、リアル受肉して美少女になってしまっているということ――。


 ――……待てよ?

 これ、使えるんじゃ……?


 莉音が目ざとく俺に問いかける。


「お、その顔もしかして、何か思いついた?」


 ……別に、作戦なんて大層なものではないけどな。

 でも。


 俺の中に、一筋の光が見えた気がした。

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