#23『バーチャル美少女、策を練る』
「――うそ、本当に登録者数伸びてんじゃん」
俺のチャンネルの登録者数を見た莉音が、信じられないものを見たとでも言いたげに声を上げた。
確かに莉音の言う通り――元々登録者数が11万人くらいだった登録者数が、今は13万人ほどまで伸びている。
元々緩やかに伸びていたとはいえ、これはかなり異常な伸び率だった。
「ざまあみやがれ。俺はやれば出来る子なんだよ」
「どうやったの?」
莉音がキラキラ目を輝かせながら俺を見る。
よくぞ聞いてくれました。
俺は意気揚々と答えた。
「配信内で、50万人を超えたら瑠璃川ラピスとコラボするって宣言したんだよ」
俺がしたことと言えば、まだそれだけだ。
だが、相手は200万人越えのVtuberなのだ。そんな相手とコラボするということになれば、自ずと注目度は上がる。
無論、こちらから一方的にそう言ったところで100パーセント信じてはもらえないだろう。しかしそういう奴ほど、直接瑠璃川ラピスにその真偽を確かめに行く。向こうの配信にそれを問いただすコメントが湧く。
瑠璃川ラピスはきっと答えに困るはずだ。
なぜならこの状況では、彼女はそれを肯定したとしても、否定したとしても、嘘になる可能性があるからだ。
そして、そんな状況で、彼女がとった答えは――沈黙だった。
だが、そこで黙れば……暗に俺との関係を認めることになるのと同義だった。よって、俺の発言がより信憑性を増す。
その結果が、今回のチャンネル登録者向数増加だった。
おおむね想定通りだ。流れとしては悪くない。
だが、この流れだけで50万人を達成させるのは難しいだろう。
200万人の登録者から引っ張って来れるのは、せいぜい5パーセントもいれば良いほうだ。
よって、5万人から10万人増えれば御の字なのだ。
残りの30万人以上は、他の方法で集めなければならない。
何かいい方法があればいいのだが……。
俺の話を聞いていた莉音は、さっきの期待に満ちた表情とは打って変わって眉に皺を寄せ、なんとも微妙な顔をする。
「……なんだよ、何か言いたげだな」
「いやぁ……毎度のことながらやり方が小狡いというか、なんというか……」
「はぁ? 別にいいだろ? 猶予は1ヶ月しか無いんだぞ? いまさら手段を選んでる場合じゃ無いだろ」
「まぁ、そうかもしれないけどさ……」
……莉音に話の腰は折られたが、まあとにかく、早めに登録者を増やす手立てを考えなければ、だ。
「莉音、なんか良い案はないのか?」
「うーむ、そうだなぁ……」
莉音は少し考え込む。
そして、ひとつ俺に提案した。
「……だったら胃カメラ配信とかはどうかな?」
「胃カメラ配信? なんだそれ?」
「ほら、ちょっと前に胃カメラ配信をやってバズったVtuberの子が居たんだけど、お姉ちゃんも便乗してやってみれば?」
なんだ……?
そんな奴がいるのか、Vtuberって……。
世間は広いな……。
まぁ、確かにインパクトはそれ相応にあるのかもしれないが……。
「……残念ながら、却下だな」
「えぇー……! なんでよー……!?」
「インパクトとしては悪くないかもしれないけど、他の子がやってる時点で二番煎じじゃねぇか。二番煎じな時点で、もう下策でしかねぇんだよ」
誰かの猿真似をして人気が出るほど、流石にVtuber業界は甘くはないだろう。
「そっかぁー、結構良い案だと思ったんだけどなぁ……」
「残念だったな」
莉音に聞くだけ、無駄だったかもしれないな……。
――いや、待てよ……?
今の俺は、瑠璃川ラピスの件で、いつになく注目度が高まっている。
しかも、それ以前にも例の地上波デビューによって、プチバズりしたばかりだ。
今ここで……注目されているこのタイミングでインパクトのある何かが出来れば、爆伸びする可能性があるんじゃないか……?
でも……。
インパクトのある何か、か……。
「……だああっ! ダメだ、思いつかねぇ!!」
普段使ってない脳みそをフル回転させたせいか、今にもパンクしてしまいそうだった。
ここは、一旦クールダウンするべきだな。
「まあ良いや、アイス食ーべよっと」
俺は考えるのを中断して、冷蔵庫へと向かう。
そういえば、とっておきのアイスがあったのだ。超高級の超良いやつ。
確か、冷凍室の中に……。
冷凍室の中に――。
――ない。
嘘!? なんで!?
俺、まだ食べた覚えないよ!?
「どうしたの?」
「あ、いや……アイスが見当たらなくてさ……」
「あー」
すると、莉音は申し訳なさそうな声で、
「ごめん、あれ食べちゃった」
はああああぁっ!?
「あまりにも美味しそうだったからつい。ごちそうさま」
……こいつ殴ってもいい?
ちなみにこの国では美少女無罪が適用されるって聞いたんですけど?
「はぁ……もういいよ」
仕方ない。ちょっと億劫だけどコンビニ行ってアイス買ってくるか……。
「アイス買ってくるから、お前はここで待ってろ」
「はーい」
そしてドアノブに手を掛けたところで――、
――ピンポーン。
チャイムが鳴った。
ん? 誰だ?
amezonとかで何かを注文した覚えは特にないんが……。
扉を開くと、そこには楓ちゃんがいた。
「おはようございます、お姉さん」
しかし俺は、自ずと彼女の手から下がっているビニール袋に視線がいく。
これは……もしや……。
「おはよう、楓ちゃん。これは……?」
「差し入れのアイスです。お姉さん食べるかなーと思って」
まさかのハーゲンナッツ。
神や……。
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