#18『バーチャル美少女、疑う』
結局、あのパンク女――イラストレーターの
唯一分かったのは、彼女が『瑠璃川ラピス』のキャラデザ担当――いわゆる『ママ』だってこと。
瑠璃川ラピスというVtuber自体は、あまり詳しくない俺でも知っている。登録者が200万人を超える、Vtuberの中でも相当上位の存在だ。
だけど、俺と瑠璃川ラピスは唯一『Vtuber』って共通点があるだけで、全くと言っていいほど接点がない。なおさら、marmeloが俺のことを気にする理由が謎だった。
俺みたいなVtuber業界全体で見たら取るに足らないような存在なんて……大物Vtuberの担当イラストレーター様にとってはどうでもいいはずだしなぁ……。
どうしても気になった俺は、ふと思い立って、瑠璃川ラピスのチャンネルを検索した。
もしかしたら、彼女の動画になにかしらヒントになるものがあるかもしれないと思ったからだ。
チャンネルを表示すると、
「お? 丁度なんかやってるな……」
たまたま瑠璃川ラピスが配信をやっていた。
好都合だ。
ちょっと覗いてみるか。
俺は、その配信をクリックしてPCに表示させる。
――配信の内容は、最近起こった出来事を語ったりする至って普通のものだった。
他のVtuberとの絡みとか……ライブでの裏話とか……。
特段おかしな内容の話は無い。
まあ、俺のことを気にしているのは彼女じゃなくて
「はぁ……なんかモヤモヤするな……」
やっぱり直接会って問い質したほうが早いかもしれない。
marmelo自身も、近いうちにまた会えるみたいなこと言ってたし……。
そう言えば莉音が連絡先交換してもらったって言ってたな。
莉音経由でコンタクトを取ってみようか――。
――それにしても。
瑠璃川ラピスの配信を見ていて思ったが……、
やっぱり人気Vtuberってだけはあってトークが上手いな。
エピソードの一つひとつに丁寧にオチが付いていて、聞いていて飽きない。ベテラン配信者の為せる業、という奴だろうか。
しかしそれ以上に、気になったのはそのキャラ付けだ。
優しい口調のおっとりキャラみたいなものを終始貫いている。
もちろんこれが彼女の地だという可能性もなくは無いが……それにしたってここまでキャラブレしないのも大したもんだぞ。
「へぇ……勉強になりますなぁ……」
まあ、勉強になったところで俺には真似しようがないが。
……とにかく、瑠璃川ラピスは関係なさそうだ。
俺は彼女の配信を閉じようとして――、
――その直前、話し始めた内容に、耳を疑った。
『――そう言えばこの前、友達と一緒にワニメイトに行って……』
「は……?」
その話は、女友達と遊びに行ったという内容のものだった。
それを聞いて、俺の思考は急停止する。
気のせいか……?
いや、でも……。
この話って――この前、俺と美玖ふたりで遊びに行った時のこととちょっと似てね……?
配信のコメント欄は、突如登場した『友達』の存在に盛り上がっていた。
『百合キタ! ありがとうございます!』
『友達って誰?』
『スフィアじゃね?』
『いやスフィアじゃないだろ、スフィアだったら名前伏せる意味分からんし』
これ……どう見るべきだ?
正直、話自体はありふれた内容だ。話が良く似ているだけの……全くの別人という可能性もあり得る。
だが……。
俺の想像していることが正しければ……。
俺はスマホを取り出し美玖にメッセージを送ろうとして――思いとどまった。
美玖に一体なんて聞くよ?
もしかしてVtuberやってますかって、馬鹿正直に聞くのか?
……無理だ。
あまりにも突拍子が無さ過ぎるし、まだそうだと決まった訳じゃない。それに、万が一俺の勘違いだった時に、逆に俺の正体がバレることになりかねない。
他に方法と言えば……。
――そうだ。
それならいっそ、まとめてmarmeloに聞いてみるというのはどうだ?
あの人なら、もう俺の正体に気付いているのでバレる云々は関係ないし……何より俺に興味を持ってくれているぶん、こちらからも情報を引き出し易いかも知れない。
そう思い立った俺は、美玖ではなく――莉音にメッセージを送っていた。
『頼みがあるんだが』
『なに?』
『marmeloと連絡先交換したんだよな?』
『え? したけど……なんで?』
『marmeloに連絡取ってくれね? 会って話がしたい』
◇◇◇◇
marmeloと会うという話は、意外にもトントン拍子で決まった。
なんでも、あちらが二つ返事で了承したとか。
俺は、あの人と出会った時のことを思い出す。
『たぶん……また会える日も近いから』
あの時の言い方……。
もしかしてあの人は、いずれこうなることを予想していたのだろうか。
ということは、やっぱり――。
待ち合わせ場所で待っていると、やがてパタパタとこちらにやってくる人影が見えた。
パンクな格好に、女にしては高い身長――間違いない。
「……やあ、結月ちゃん。遅れてごめん」
marmeloだった。
再度見て思ったけど……やっぱこの人めちゃくちゃ目立つな。特殊な格好と高い身長で人の目を引くことこの上なかった。
まあ、目立つで言ったら……俺も大概だけど。
marmeloは俺と再会するなり、ニヤリと口角を上げた。
「また会ったね」
その反応を見て、俺は確信を強める。
この人……やっぱり分かっていたのだ。こういう展開になることを。
「marmeloさん――」
「――
「え?」
「
「はぁ……」
「あ、そうだ」
marmelo――円華さんはポケットから何かを取り出し、俺に差し出す。
「みるきぃ。食べる?」
「いや……別に……」
「遠慮しないで、ほら」
円華さんは俺の手のひらに無理矢理みるきぃを握らせる。
「あ、ありがとうございます……」
俺は貰ったみるきぃをカバンの中に仕舞う。
こんなことをしてる場合じゃないんだが……。
「それより、円華さんに聞きたいことが――」
俺がそう言うと、円華さんは全てを理解したかのような顔をして――。
「――それについては、当人同士で話したほうがいいんじゃないかな?」
――は?
当人同士……?
俺がその言葉の意味を理解するよりも先に、円華さんはさんは、後ろの建物の陰に向かって手招きする。
「ほら、隠れてないで早く出てきなよ」
…………え?
すると。
その建物の影から、誰かが現れる。
そして……その人物を、俺はよく知っていた。
「……美玖?」
――そう。
そこにいたのは、美玖だった。
美玖は顔を真っ赤にして俯きながら――恥ずかしそうにプルプルと震えていた。
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