#9『バーチャル美少女、呼び出される』
『――あ、もしもし、お姉ちゃん?』
いつものように自分の部屋でグータラしていると、急に莉音から電話が来た。
なんだ、突然……?
アイツが俺に用がある時は大抵、直接部屋までやってくる。俺はだいたい部屋に居るし、部屋に来た方が話が早いからだ。
それにアイツ、ここの部屋の合鍵持ってるし。
いや、勝手に作られただけで、俺はいまだに許した訳ではないのだが。だがまあ、言ったところで無駄なのは明らかなので、俺もそれ以上追求するつもりはなかった。
家庭内ヒエラルキーは、俺よりも圧倒的に莉音が上なのだ。つまり、俺に発言権は殆どない。
まあ……兄、もとい姉としてどうよ? とも思うが……。
それは今後の課題ということにしておこう。
……で、話が戻るが、そんな滅多に電話してこない莉音が珍しく連絡をしてきたのだ。
その時点で、俺は嫌な予感がしていた。
『あのね、今日――』
「あー、莉音。悪い、また後にしてくれないか? ちょっと今手が離せないんだ」
――だから、莉音が何かを言う前に、俺はアイツの言葉を遮っていた。
「そういう訳だから、じゃっ」
『え? ちょっとまっ――』
ブチン!
ツー……ツー……。
……ふぅ。いい仕事したぜ。
「じゃあ、ゲームでもするか――」
――テンテンテレテンテン♪
スマホから着信音。
ブチン!
ツー……ツー……。
……ふう。いい仕事したぜ。
「さて、ゲームを――」
――テンテンテレテンテン♪
……だああああぁぁっっ!!
何なんだ、アイツ!!
「おい、何回かけてくんだ、テメエ!!」
『だって大した用もないくせに私の電話切るんだもん』
ぐっ……。
「あ、あるよ……? 大事な用……」
『へぇ、じゃあどんな用か言ってみなよ』
「それはだな……光の戦士になって世界を救うという、とても大事な――」
『――はい、嘘ー。世界救わずにひたすら麻雀やってるだけの癖に』
よくご存知で。
『どうせ暇でしょ? 暇ならさ、ちょっと来てくれないかな?』
別に暇じゃない。
暇じゃないが……百歩譲って暇だということにしてやろう。
だが。
「来てくれって、どこにだよ?」
俺がそう尋ねると、莉音は言いにくそうに言葉を詰まらせた。
『あー……詳しいことは来てから話すから、とりあえず来てくれない? 場所は今から送るから』
莉音はそれだけを言い残すと、俺の返事を待たずに一方的に電話を終了させた。
「おい、ちょ――」
ツー……ツー……。
「――ったく……」
アイツ本当に何なんだ……。
無視するか……?
けど、それをすると後々面倒なことになりそうだしな……。
そして、数秒ほど遅れて、莉音からマップの座標が送られてくる。
それが示していた場所は、ここから2、3ほど離れたところにある、とある駅だった。
◇◇◇◇
結局、莉音の言う通りに俺は指定された駅を訪れていた。
そこそこ広い駅ではあるのだが、莉音の姿を見つけるのはそこまで難しくはなかった。
駅の目の前にあるオブジェが、そこを訪れる人々によって、集合場所として利用されているからだ。そして例によって莉音の指定してきた場所も、そのオブジェの前だった。
だから、莉音の姿はすぐ見つかった。
だけど……。
「あ、きたきた。おーい、お姉ちゃーん!」
俺の姿を見つけ、大きく手を振る莉音。
しかし、俺はそんな莉音に近付くのを、思わず躊躇してしまう。
だって――。
「あれが莉音のお姉ちゃん?」
――そこにいたのは、莉音1人だけではなかったのだ。
え?
どういうこと?
てか、あの子誰……?
見た感じ、莉音と同じ学校の制服を身に纏っている。ということは……たぶん、莉音の友達なのだろう。
けど……。
友達がいるなんて、聞いてないって……!
俺はその場ですぐさま、回れ右をする。
「あ、ヤバ」
「え、なに?」
「お姉ちゃん逃げようとしてる。追いかけるよ!」
「え? え?」
後ろから2人のそんな声が聞こえてくるが、関係ない。
俺は走り出した。
絶対に捕まってたまるか!!
ニートの脚力を舐めるなああぁ――!!
……。
……ハァ……ハァ……。
――ニートの脚力を……、
ハァ……ハァ……。
舐めるなぁ……。
ハァ……ハァ……。
――不意に、腕をガシッと掴まれる。
「――はい、捕まえた♪」
俺は開始10秒で、いとも簡単に莉音に捕えられていた。
くそ……完全に日頃の運動不足が祟った……。
しかも美少女化してしまった今の俺の細腕では、莉音の手は払えそうにない。
もう観念するしかなかった。
「くっ、殺せ……!!」
「いや、別に殺さないから……」
「――莉音の言う通り、面白いね、お姉さん」
莉音の隣にいた少女が、息も絶え絶えの俺を見て、可笑しそうに笑う。
俺はちっとも面白くないんですが。
「おい莉音」
「うん?」
「どういうことなのか説明しろ」
「あー……」
すると莉音は視線を彷徨わせた後、
「……じゃ、積もる話もあるし、ワックでも寄ろうか?」
近くにあったハンバーガーチェーン店を指差すのだった。
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