#6『バーチャル美少女、アイスを食べる』
俺がリアル美少女受肉し、SNSで醜態が全世界に拡散された……その翌日のことだ。
俺は結局、再び目覚めても男に戻ることは無かった。
まあ正直、予想は出来ていたから特に驚きはしない。
むしろ戻ってたら、昨日の俺の葛藤はなんだったんだという話になるからな。しょうがない。
別にそれは良いのだ。
……だがしかし、確実に変化もあった。
それは、Vtuberとしての配信に関してだ。
日課の配信をするために自身のチャンネルを開いて、その光景に驚愕する。
「登録者数……上がってる……?」
……そう。
昨日と比べ、チャンネル登録者数が増えていたのだ。
もっとも、それ以前から登録者数は緩やかに増加してはいた。
でも、今回はその伸び率が普段の比ではなかったのだ。
具体的に言うと、10万人前後だったチャンネル登録者が千人単位で増加しており、今にも11万人に届きそうな勢いだった。
これ、もしかして……昨日の地上波デビューの効果か……?
一回出ただけで、こんなに顔が売れるのか……?
でも、1日で数千人って……顔売るってレベルじゃねーぞ! オイ!
っていうか、そもそも……俺は別に『不知火結月』としてテレビに出たのではない訳で。
つまり、どういうことだってばよ……?
「訳分かんなくなってきた……」
しかし訳が分からないのはそれだけではなかった。
いつものように配信を始めた俺だったが……。
「いつもより視聴者多くね……?」
いや、多い。確実に。
普段ならば同接数が数100人いれば良い方だったのだが、今日は1000人を超えようという勢いだ。
だが、同接数に比例するかのようにコメント欄の治安も悪くなっており、いつもよりも冷やかすようなコメントも増えていた。
……劇薬には副作用が付き物ということか。
嬉しいような悲しいような、複雑な気分だ。
ちなみに当然、配信では例のインタビューについてのことを視聴者に突っ込まれた。
しかし身バレする訳にいかない俺には、シラを切り通すしか選択肢はない訳で。
「結月も見たよ、それ。確かにめっちゃ結月に似てたよなー。……え? 結月本人じゃないのかって? いやー、実はそうなんすよ――って、そんな訳あるかい! 中身は男じゃあ!!」
どうだこの渾身のノリツッコミは。
……誰だいま『必死で草』って書いたやつ。
まあでも実際のところ、Vtuberとしての俺とTVのインタビューに答えた俺が同一人物だと本気で思ってる奴なんて居ないだろう。
所詮、
リスナーも、その辺は弁えているようだった。
どちらかと言うと、この祭りを楽しむ為にあえて乗っかってる、そんな感じだ。
ならばこれは、逆に好機なのではないだろうか?
この祭りのおかげで、注目度は最高に高まっている。
これをうまく利用すれば、いずれはトップVtuberも夢ではないのでは?
…………。
……ないな。
この視聴者数の爆伸びは所詮、一過性のものだろう。
恐らくすぐに鎮火して、普段の視聴者数に戻る。
それに……これ以上登録者が増えても、正直言って困るのだ。
俺は別に、人気になりたくてVtuberをやっている訳ではない。無論、人気である方がVtuberとしては正しい営みであるのだろうが……。
俺の場合は、そこそこの登録者がいて、小遣い稼ぎが出来ればそれで良いのだ。
だから俺は、そこから特に何をするでも無く――適当に話を切り上げて、配信を終わらせたのだった。
◇◇◇◇
――しかし、俺は想定していなかった。
全ての物事には、想定外の事象が付き物だと。
要するに――Vtuberの俺と、現実の俺を結び付ける酔狂な人物がこの世に存在している可能性を、俺は全く想定していなかったのだ。
日課にしている雑談配信を終えた俺は、コンビニで飯を調達する為に外に繰り出していた。
「くっそあちぃな……」
滅多に外に出ることがない俺は体内時計がぶっ壊れているために外に出るまで気づかなかったのだが……御天道様は丁度一番てっぺんまで昇ったところだった。
道理で暑いわけだ。
「こんな時に限って、莉音のやつは来ねえんだもんなぁ……」
アイツがいれば、代わりにお使いに行ってもらえたのになぁ。
……いや、アイツが素直に行くとは思えないが。
「あー、溶けるぅ……」
もうこれはアレだ。
コンビニに着いたらガルガル君買うの決定だわ。ソーダ味だわ。
そんな感じでひたすら悪態を吐きながらコンビニに到着した俺は、店内でたっぷり涼んだあと、弁当とガルガル君を買って外に出た。
そして、すぐに包装を取って歩きながらガルガル君に齧り付く。
一口噛んだ瞬間、冷たい感触と共にソーダの爽やかな風味が口一杯に広がった。
「はぁー、うめぇ……」
はしたないって?
知るか!
こちとら今にも暑くて死にそうなんだよ。
もしもガルガル君を我慢したせいで帰る途中にくたばったら、一体誰が責任を取ってくれるというのだ。
という訳で、俺は人目を気にせずガルガル君を貪り歩いていた――、
――その時だった。
「――不知火……結月ちゃん?」
誰かが、俺を呼ぶ声がした。
「ん――?」
俺はその声に、咄嗟に振り向く。
しかし、それとほぼ同時に、俺は自らの過ちに気付く。
今――俺のことを『不知火結月』って――。
しまった。
これって反応するべきじゃ――。
でも、そう思った時にはもう遅かった。
俺は何者かの『不知火結月』呼びに、しっかりと反応して振り返ってしまっていたのだ。
そして、後ろにいた人物――俺を呼んだ何者かと目が合う。
――そこにいたのは、綺麗な長い髪をなびかせた、若い女性。
けど。
俺の全く知らない人物だった。
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