第27話 赤い服の女

仕事を終えるとあゆむとの時間が待っている

それだけの事が葉月夜子の

この上ない楽しみだった


あゆむは菜々のものだと分かっていても

今は夜子だけに甘くて優しいあゆむ


優越感と居心地の良さが

夜子の人生を生き生きとさせていた


あゆむという存在は

最初から自分のものではない

絶対に手に入らない

いつ失ってもおかしくない


そんな前提の上での

期待の無い関係


寂しさや不安のない

ただふわふわした居心地よい関係


期待しないされない事が

こんなに楽しいものだったなんて


天使のように笑う菜々を思い出す

あゆむから掛け値無しの愛情を受けて

どんなに傷ついてもあゆむが待っていて

また笑顔になるまで側に居てくれる

わがままも理不尽も汚さも

全て受け止めてくれる


菜々のあの笑顔はあの輝きは

あゆむが居たからだったんだ


今なら私も

可愛らしい女の子になれそうな気がする


仕事を終えてあゆむの待つ店へ

夜子は足早に歩いた


店の看板が見えて来た時

ふと、足を止めた


そこには人間では無い何かと

隣にあゆむが立っていた


立ちすくんでいるとやがて

あゆむは店に入り

赤い服を着た人間では無い何かは

あゆむに手をヒラヒラとふり

長い髪をふわふわさせながら

夜の街に消えていった

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