第14話 出会う

葉月夜子は

部屋でぼんやりと膝を抱えていた


消えていく人ではない何かを

思い出していた


あの時、夜子はそれに

「人工の人類」のタグを貼った


なぜそれを選んだのかと問われると

人工の人類だと感じた、としか言えない


イメージするやり方は分かったが

あと何回これを繰り返すのだろう…


ふーっとため息をついて

「考えても仕方ないか」

と呟いてゆっくりと立ち上がり

バイトの準備を始めた



「おはようございます!」

夜子はいつもより元気に店に入った


「昨日大丈夫だった?」

「夜子ちゃんもう平気なの?」


チーフやお姉さん達が眉をひそめて

心配そうに夜子を迎えた


「昨日はすみませんでした、もう大丈夫です」

夜子がにっこり笑うと

皆ほっとした表情に戻った


「びっくりしたよー無理しちゃダメだよ?」

「ご飯ちゃんと食べてる?」

「育ち盛りなんだからいっぱい食べないと!」


と、夜子を気遣う皆の笑顔で

明るいムードに包まれた


夜子はあたたかい空気にほっとして

少しだけ残っていた恐怖を

振り払う事が出来た


そして忙しく一日を終え

夜子は家に帰ろうと早めに店を出た


通りに出てタクシーを探していると

二宮とバッタリ出会った

偶然の遭遇に二宮はご機嫌だ


「夜子ちゃん一件だけ付き合ってよ」


昨日はママに任せきりだった負い目があったので

夜子は「1杯だけ」と付き合う事にした


少し奥まった裏路地にある小さなスナックは

二宮の昔からの行きつけのようだった

二宮がドアを開けると

「いらっしゃい」

と、着飾っていない化粧も薄い

美人のママが迎えた


テーブル席に座って店を見渡す

客は二宮と夜子以外に2組

女の子は居なくて


隣の客同士で話したり

カウンターのママと話したり

みんなの距離が近い


夜子は何となく居心地がいいと思った

「いいお店ですね」

と、二宮に言うと

「ここは俺の秘密の店だからね」

と二宮は得意げだ


程なくママがやって来た

「二宮さんいらっしゃい、この時間に珍しい」

「帰ろうと思ったら可愛い子に会っちゃってね」

と、夜子を見てニコニコと笑う


ママは手際よく

二宮と夜子のグラスを置きながら夜子を見た

「あらら、帰り道に捕まっちゃったの?」


二宮は夜子に面目無いという顔をして

ペコッと頭を下げた


「いえ、私が捕まえちゃったんです」

夜子は二宮に微笑み返した


「あははっ二宮さんすっかり手綱握られてるわね」

とママは楽しそうに笑った


しばらくすると

ドアが静かに空いて

コンビニの袋を下げた

若い男の子が1人で入ってきた


若い男の子は

客に会釈しながら

静かにカウンターに入り

夜子と一秒目が合った


この人見た事がある…

夜子は記憶を遡り思い出そうとした


客ではない…


あっ…

同じクラスだった

黒縁メガネの人だ


記憶の奥にしまっていた

高校の教室の空気を思い出して

夜子は妙にソワソワした


「ほんとだよー」

「えー!ホントなの夜子ちゃん!」

ママの声でハッと我に返る


いつの間にか二宮に名前を紹介されていて

何か話しかけられていたようだ


夜子の名前が

あの男の子にも聞こえた事で

夜子は心ここに在らずになり

エヘヘっと笑って誤魔化すのが精一杯だった



二宮がママとご機嫌で歌っている隙に

夜子はカウンターの男の子に話しかけた


「同じクラスだったよね?」

「うん」

「やっぱりそっか!ここで働いてるんだ?」

「…母の店なので手伝い」

「ええっ?お母さんなの?!」

「うん」

夜子はなるほど、顔立ちが似てる

と心の中で思った


「えーっと…名前…水…」

「水無月です」

「水無月くん、メガネかけてたよね」

「うん」


同じクラスだったが話した事も無く

控えめな人そうだったので

急に馴れ馴れしかったかなと

夜子は感じ

「話した事ないのに急にゴメンね」

と、テーブル席に戻ろうとした


「覚えてくれててビックリしただけ」

と水無月あゆむは微笑んだ


笑うとかわいいんだな

と、夜子はその笑顔に少しみとれた

「名前はちょっと忘れてたけどね」

と、夜子も微笑んだ

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