第12話 震える
葉月夜子は焦っていた
すっかり忘れていたものが
突然目の前に現れた
寝過ごした朝に味わう焦燥感のように
一瞬心臓が止まりそうになり
鼓動が早鐘の様に響きだす
落ち着こう
ヘルプで着いてくれていた女の子が
夜子の分のグラスなどを取りに
立ち上がろうとしたので
夜子は慌てて引き止めた
「ここに居て、私が持ってくる」
ニッコリする余裕もなく
夜子はホールを早足で通り過ぎ
カウンターに入ると
厨房まで走っていた
どうしよう、ええと
どうするんだっけ
バタバタと戻ってきて
顔色の悪い夜子に気がついたチーフが
声をかけた
「ん?どした?何か注文?」
「…」
チーフは心配そうに首を傾げた
頭の中でタグを貼るイメージだ…!
夜子は深呼吸して呼吸を整えて
震える手足にぐっと力を入れ
厨房を出た
夜子はカウンターから清水の席の方を見た
ここからは見えない
一瞬だけだったので
顔がイメージ出来ない…
清水さんや女の子は何も感じていない
私が動揺していると
あの人に気付かれてしまう…?
身体が熱くなりまた足が震えだす
その瞬間、手を捕まれ厨房に引きずり込まれた
「どうしたの大丈夫?」
チーフは夜子の背中を軽くさすって
なだめてくれた
椅子に崩れるように座る夜子に
水を飲ませると
ただ黙って背中をさすった
あたたかな手のお陰で
少しずつ落ち着きを取り戻した夜子が
「すみません、もう大丈夫」
と言うと
「無理せずね、具合悪いなら帰るのがいいよ」
とチーフはまだ心配顔だ
私は手のひらを組んでぎゅうっと力を入れた
やってみよう…
「おかえり夜子ちゃん!」
夜子は戻るや否や
声をかけてくれた清水より先に
その、人ではない何かを視界に入れ
タグを貼るイメージをした…
「えっ…」
人ではない何かは
瞬時に糸のように細くなり
消えた
夜子はその場で座り込んでしまった
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