獣と神経

 橋のうえ、だれかいる小さな夜であった。月光の裏でラッパがし、それはそれはいい響き。男は女を眺め、女は男へ悲しくなった。

 瞳が丸いのに、どうして私を見つめればそう優しく細くなるの。幼い色がいいのに、と。

 この街は歩道橋を要さない。うえも下も平等で、人心を現実からして矯正しよう政治で成り立っている。

 女はだれへでも色目をし、男へもそうで、さっきした台詞とてこの一環。寂しいだけで、電話を鳴らし、ありもしない歩道橋を望んでいる。

 ある大金持ちは、金銭を信じ、女は歩道橋のゆうれいを大切にしている。平の道々、車は数々抜けていく。女はその風へ引きちぎれそうな糸を思った。風は切れない糸なのねと、まあ軽やかで思った。

 女は嘘泣きを覚え、警察には嫌な涙とされ、指紋とおなじほど扱われた。取調べは、罪状めいっぱい並べる。室内では六法はどの棚にも刺さっている。

 やがて女は歩道橋を除霊し、満足し、どこか暗い底で眠った。この街で彼女へだけ、上下が許されるは、彼女こそ、それそのもののであるから、しようなし認められている。あらゆる権能が、そうであるのに類似して。

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