第25話

男に両腕を掴まれ、抵抗できないまま人気のない部屋に連れ込まれた。


その上、手足まで縛られてしまった。


「こんなことして、ただで済まされるとお思いですか…!?」


「そうだねぇ、ただでは済まされないかもね。俺を見つけられたら、だけどね」


「っ、」


ここが何処なのかすら分からない。

足音一つ聞こえない。


「お前たちは外で見張りをしていろ」

「分かりました」


こんなことになるなら、湊さんの言う通りにしていればよかった。


動かずに待っててって言われていたのに。


私は一体何をされるんだろう。


「あぁ、やっとこの日が来た。どれだけ君を手に入れたかったか分かる…?」


「分かりませんっ!」


こんなのおかしい。間違ってる。


「ははっ、その目。最っ高だよ!あぁ、もっと蔑んで…!」


変態だ…


まともでは無いと思っていたけど、ここまでだったとは。


「気持ち悪い」


「いいねぇ。だけど、いつまで強がっていられるかなぁ」


と彼は囁きながら、私の顎を優しくなぞった。


振り払いたかったが、手足を縄で縛られているため、身動きが取れなかった。


「やめてっ、」


「抵抗しない方がいいよ?」


湊さんは、私がいないことに気づいてくれているのかな。今頃大騒ぎだったりして。


「いつもは話しかけてくるだけだったのに、」


まさか、こいつにこんなことする度胸があったとは。


「あぁ、毎回毎回邪魔者がいたからねぇ」


邪魔者…?


「誰のこと、」


「君の旦那に決まってるだろ。俺が君に近づく度に目を光らせていただろう。ほんと、厄介だったよ」


湊さんが…?

まさか、そんなはず…


「だけど、今日は他の人と話すのに忙しいみたいで、君のことまで構っていられなかったみたいだね」


「湊さんに何かしたの」


「嫌だなぁ。何もしてないよ」


湊さんに何かあったら、


「許さないからっ」


「あぁ、怖い怖い」

なんて言って身震いする振りをした。


「早くここから出して!」


「解放してあげてもいいよ?君が俺のものになるって約束できるならね」


「あなたのものに…?」


何を言っているんだこいつは。


「じゃあ、そうだなぁ。君からキスしてよ」


私が、こいつにキス…?

そんなの嫌だ。


こいつのものになるぐらいなら死んだ方がマシよ…!


「するわけないでしょ!虫唾が走るわ!」


「そんなこと言って…恥ずかしいの?じゃあまあ仕方ない。俺からしてあげるよ」


話が通じない。


「嫌っ、!」


キスされないように、必死に頭を振って抵抗した。


「抵抗しない方が身のためだよ」


煮るなり焼くなり好きにすればいい。そんなので心が折れたりなんかしないんだから。


「湊さんが来たらあんたなんて、ただじゃおかないんだから!」


「はっ、まだ夢見てるの?あいつは助けになんてこないよ」


「来る!湊さんは絶対助けに来るんだから!」




私は、信じる。

湊さんは絶対に助けに来てくれる。

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