第26話

「はぁ。手荒な真似はしたくなかったけど、君がどうしても俺のものになりたくないって言うんだから、しょうがないよね」


あなたが何をしようと、私の決意は変わらないんだから。


「私は、あなたのものになんてならない!」


湊さんのそばを離れるくらいなら、あなたのものになるくらいなら、死んだ方がマシだ。


「それなら、自らあいつの元を離れる選択をさせるまでだよ」


そんな選択するわけない


「馬鹿なこと言わないで…!そんなことするわけないでしょ!?」


「いつまでそう言っていられるか、見ものだね」


この人は、一体何を企んでいるんだろうか。


どうして、私が湊さんの元を離れると断言できるんだろうか。


「…何をするつもり」


「何って…密室で男女がする事といえば、一つしかないでしょ?」


「何言って…」


彼の目が冷たく光る。


そして、不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいてくる。


瞬時に身に危険が迫っていることを悟った。


「やめて…!」


身動きが取れない私は、せめてもの抵抗で身をよじることしか出来なかった。


「この日をずっと心待ちにしてたんだ。せっかくだから、ゆっくり味わってあげる」


そう言い、舌なめずりをした。


私の抵抗も虚しく、男の指が私の脚を滑らせながら、ゆっくりと下から上へと動いていく。


その感触に、私は思わず息を呑んだ。


心臓は激しく鼓動し、恐怖が全身を駆け巡る。


「やめてっ!触らないで!湊さん…!お願い、助けてっ!」


どうしよう、このままじゃ、私は…


そう思った瞬間、外から鈍い音が聞こえてきた。


何かが倒れる音。


私は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。


「おい!何をしているんだ!」


そう言い、驚いた表情を浮かべて振り返った。


さらに外から激しい音が続いた。様子を確認するためか、ドアに向かって走り出した。


なにが、どうなっているんだろう。


もしかして、本当に湊さんが助けに来てくれたんだろうか…


暫くして、音がなくなり…ドアが開いた。


私は、覚悟を決めて目を瞑った。だけど、


「彩花…!彩花!大丈夫か!」


そこには、会いたくて仕方がなかった湊さんの姿があった。


「湊さ、ん…?湊さん…!湊さん!」


湊さんの姿を見て安心したからか、涙が溢れて、震えが止まらなかった。


「怪我はない…!?あいつに何された」


そう言いながら、私を落ち着かせようと優しく手を握ってくれた。


「みな、と、さん」


今はあいつにされたことなんてどうでもいい。

湊さんにこうしてまた会えた。


それだけで十分だ。


「みなと、さん、助けに来てくれてありがとう」


息を切らしながらも、私に向かって微笑んだ。



「当たり前でしょ」



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