第12話

「ん〜、あっ、いてて....」


朝起きて、火傷をしたことを忘れて背伸びをした。


…その生活に早く慣れないと。


昨日湊さんに、朝ごはんは俺が自分で作るから。彩花は起きなくていいからね。


と言われ、いつもより遅い時間にアラームをセットした。


そして、朝ごはんを作ろうとキッチンに行くと、既に朝ごはんが用意されており、


〝口に合うか分からないけど、温めて食べてね〟


ラップの上に付箋が貼られていた。

「湊さん…」


口に合うかって心配してるけど、湊さんの料理は美味しいよ。私なんかよりもずっと。



そして、いつもより早い時間に湊さんが帰ってきた。


「彩花!ただいま!」

「おかえりなさい、今日は早いね」


「彩花が心配で、急いで仕事終わらせてきた」

大丈夫なのに。ほんと、心配性なんだから。


「ありがとう」


「無理してない?洗濯とかしてないよね」

「してないよ。湊さんがおすすめしてくれた映画

見たよ。すごく面白かった」


洗濯は、しようと思ったけど、湊さんに怒られそうだったからやめた。


「そっか、良かった。」

「あ、お風呂沸かしてあるよ」


「俺がするからいいのに、」


ボタン押すだけなのに、


「それぐらいできるよ。湊さんも、仕事から疲れて帰ってきて、直ぐにお風呂には入れなかったら嫌でしょ」


「それよりも彩花にさせる方が嫌だ。その腕が治るまで俺が全部するから」


「そこまでしなくたって…」

「せめてもの罪滅ぼし」

「罪滅ぼしだなんて」


湊さんのせいじゃないのに、

「俺の勝手な自己満足だから。」


そんなこんなで過保護な生活は続き、

「火傷も治ったことだし、皿洗いは私がするよ」


「ありがとう。ちょっと部屋で仕事してくる

よ。何かあったら呼んで」

「分かった」


腕に傷も残らずに完治してようやく家事ができる。


そう思っていた矢先、


「きゃっ、」

お皿を落としてしまった


そして、話の冒頭に戻る。


「大丈夫じゃないよ!」


皿を割って怪我をしたことなんて、私にとっては珍しいことでも何でもない。


その度に湊さんには呆れられていたけど、


「ほんとに大丈夫だから」


そう言ってお皿に触れようとした瞬間


「触るな!」


「っ、」


湊さんが、今の湊さんが私に怒鳴ったのは初めてだ。


「あ、大きい声出してごめん。俺がするから、彩花は触らないで」


「だけど…」

「だけどじゃないの。彩花に怪我させたくないから。俺の気持ち分かってくれる?」


「うん…ありがとう」

「どういたしまして」


今...一瞬だけ湊さんに戻った気がした。けど、きっと、気の所為だよね...じゃないと、俺がするなんて言わないし…


「ごめんね湊さん、ありがとう」


私のせいで、湊さんの仕事を増やしてしまった。


「彩花はもっと自分の事を大切にしてよ。彩花が怪我したら悲しいよ、」


「湊さん…」


湊さんは私の事を本当に大事にしてくれてるんだ。


今の湊さんとならやり直せるのかも。



このまま幸せな第二の人生を…






そう思っていたのに、

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