第2話


「え…、天使…?」


この人は…何を言ってるんだ…?この部屋に天使と思えるようなものなんて何も…ま、まさか幻覚でも見えてるんじゃ…


「いるじゃんここに」

そう言って私のことを指さした。

「え、わ、私ですか?」

「うん」


私が天使…?そして、そんな瞳で私のことを見つめないでください。

「私は天使なんかじゃないですよ、」

こんな言葉人生で初めて言った


「ってことは、ここは天国?」

「違います…」


さっきからおかしなことばかり言って…頭を強く打ちすぎておかしくなったのか…それとも、ただ私の事をからかってるだけ?いや、湊さんはそんな事をするタイプの人じゃない。


「そっか、えっと…俺達初めましてなのかな?」

「え?」

どういうこと?私と過ごした時間をなかったことにしようとしているのか?


「君の名前は?」

「彩花です…み、湊さん、本当に私が誰か分からないんですか?」

どう考えても嘘をついてるようには思えない

「ごめんね、君のことだけじゃなくて、実は俺が誰なのかも分からないんだ」



ーー


至急、家にお医者さんを呼んで診てもらった。



「記憶喪失…?」


「はい。後頭部を強く打ったことにより脳震盪が起きたのでしょう」

「そんな…湊さんはすぐに記憶が戻るんですよね?」

「今はまだ何とも…」


どうして…どうしてあの時我慢できなかったの。いつもの事だからって、聞き流しておけばこんな事にはならなかったのに。

「そうですか、ありがとうございます。」

「はい。では失礼します」


私のせいだ。私のせいで湊さんは…どうしよう…け、警察に行くべきなのか…もう少しで人を殺めてしまいそうに…いや、もちろん故意ではないけど殺人未遂…


「彩花ちゃん!ねぇ彩花ちゃんってば!」

「っあ、はい」

名前を呼ばれているのにも気づかないぐらいぼーっとしていたらしい。



「大丈夫?顔色悪いけど」

「大丈夫です。」

嘘だ。大丈夫なんかじゃない。だけど今一番混乱しているのはきっと湊さんの方。


「彩花ちゃん…?」

でも、考えれば考えるほど…


「湊さんっ…私のせいで、私のせいで…ごめんなさ、」

謝ってすむ問題じゃない。分かってる。だけど私には謝ることしか出来ない。


「え、ど、どうしたの?どこか痛い?泣かないで、」

「ごめんなさい、」

泣きたいのは湊さんの方なのに、涙が止まらない


「何があったか分からないけど、もう謝らないでいいから」

「湊さんは私のせいでっ、」

私が押したりしたから、


「わ、分かった!許す!」


「…え?」

私が何をしたかも知らないのに、どうして、


「理由も聞かない。だから一つだけ約束して。このことで心を痛めたり泣いたりしないこと。」

「どうして、どうして許してくれるんですか」

湊さんからしたら私は今初めてあった初対面の人間なのに。


「どうしてかな。君が泣いているのを見ると胸がとっても苦しくなるんだ」

「苦しく…?」

前の湊さんなら、私が苦しんでいようが泣いていようがどうでもよかったはずなのに


「この話はもうおしまい。ところで、君と僕はどういう関係だったの?初めましてではないんだよね?」


私達の間には愛はなかった。湊さんは私を愛してなかったけど。私はあの日、本気で逃げ出そうとしたけど。


「私は、あなたの妻です。」


それだけは決して変わらない真実だから。


「君と僕が…そうか、だから君が泣いたら苦しかったのか。君のことが好きだから。」


「へ、」


「好きな人にはいつも笑顔でいてほしいでしょ?」

好き…か、湊さんは私を嫌い、というより関心すらなかったと思う。


今の彼にこんなことを聞いたところで意味が無い事くらい分かってる。だって前の湊さんと記憶喪失になった今の湊さんは違う人だから。それでも1度ぐらいは湊さんにお前が妻で良かったって言われたい。


今の彼なら…


「湊さんは…私と夫婦だって知って、その…嬉しいですか…?」


だけど、聞いて直ぐに後悔した。こんなこと聞かなければよかったって。記憶を失ったところで、根本的な性格は変わったりしないんだから、どうせまた酷い言葉を言われ続けることになる。


それなのに…


「すごく嬉しいよ?」


「う、れしい?」

自分から聞いといてなんだけど、私の予想をはるかに上回る、嬉しいなんて言葉が返ってくるとは思わなかった。


「嬉しいよ。こんな可愛い天使みたいな子が俺のお嫁さんだなんて信じられないぐらいだよ」

どうしてそんなこと聞くの?って不思議そうな目で見てくるのはやめてください。


「か、かわいい?」

「うん。すごーく可愛いよ。だけど、今の感じだと…僕たちあんまり仲良くなかったみたいだね」

仲良くないというか…まぁ、最悪でしたね


「湊さんはとても忙しい人だったので、ゆっくりお話する時間…というよりそもそも2人で過ごす時間がなかったんです。」

「そっか…寂しい思いをさせちゃってたんだね。」


私はむしろ貴方が家にいない時間の方が大好きでした。なんて今は口が裂けても言えない。

「しょ、しょうがないですよ、」


「…ふふ、」


「え、どうして笑うんですか、」

湊さんが笑った顔初めて見た…

「ごめんごめん、彩花ちゃんが分かりやすすぎてつい」


「え?」


「俺がいない方が良かったって顔してる」

「なっ、ち、違いますよ」

なんでバレてるの、そんな顔に出てた?


「どっちにしろごめんね?」

「いえ、謝らないでください。湊さんは何も悪くないですから」

私が至らないせいだから…迷惑ばっかりかけて…


「ところで…いつも敬語なの?」

「え?はいそうですけど…」

「敬語で話すのやめない?」

「はい?」


私が湊さんにタメ口…?ダメだダメだ。想像しただけでも…恐ろしい


「だって、俺達夫婦なんだよ?敬語ってなんか距離感じない?」

そんなこと言われましても…

「努力してみます…」


「ん?」

タメ口で言えって圧力がすごい


「努力してみ…ますね、」

「あー、言ってくれないんだ。そっか、そうだよね。俺の事あんまり好きじゃないもんね。そんな相手と距離縮めるなんて嫌だよね」


なにそれ、ずるい…


「あーもう!分かった!分かったから!」

「ふふ、怒った顔も可愛いね」

「な、ふざけないでください」

私はこんな湊さん知らない。私に可愛いなんて言ってくれたこと…


「ふざけてないのにー、ま、次敬語使ったらキスするから」

「き、キス!?」

今サラッと問題発言したよね。湊さん…ちょっとチャラくなった?これが素なのか?


そんなことより。これからどうなっちゃうの、私の結婚生活!?




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