0-2. スタートとゴールを設定する


 ・


 さて。

 ビワイチに挑むと決めたはいいが、気になることがある。

 

 天気だ。


 ロードバイクガチ勢であれば「雨が降ろうが槍が降ろうが走ったらぁ!」の精神で挑むのだろうが、あいにく私はそこまでの根性はない。

 というか雨の中走るって結構危ないしね。濡れるとそれだけで体力を奪われるし、集中力も切れる。視界も足元も悪いし、滑ってブレーキの効きも悪くなる。

 そうなったら流石にビワイチどころじゃないので中止である。

 1週間前時点の天気予報は、雨。


 だが私はそこまで悲観していなかった。

 挑戦予定日当日とその前日は雨マークが出ているが、その翌日は晴れマーク。

 気圧配置はいくらでもズレるだろう。となれば雨は前倒しになる可能性が高い、と私は思っていた。

 実際に日にちが進むにつれて、雨予定は前倒しになっていく。

 3連休の数日前には翌日に雨、その後は曇りのち晴れとなっていた。

 これなら行ける……!


 ただ気になる点が一つ。

 気温が低いということだ。

 予定日の前日あたり、琵琶湖周辺の最高気温が23~25℃の予報だというのに、挑戦当日は21℃。

 最高気温が低いということは、最低気温も低いということだ。


 当たり前の話だが、あらゆる屋外スポーツにおいて天候と気温は重要なファクターだ。

 特に長時間動き回る耐久的エンデュランスアクティビティにおいて、気温が高すぎれば熱中症の危険があるし、低すぎれば体温の維持に体力が持っていかれて消耗が早まってしまう。


 しかし心配したところで、天気同様自分ではどうしようもない部分だ。

 どうしようもないのであれば、対策はするとしてもそれ以上不安に思ったところでどうしようもない。

 諦めた私は次の準備に取り掛かることにした。




 ・


 ロードバイクはバラして纏めて専用の袋に入れると電車に持ち込んで良い事になっている。

 これを輪行というのだが、私は在住する岐阜県多治見市からJRで滋賀県に入るつもりだった。つまり琵琶湖には東側からアプローチすることになる。

 前回のビワイチの際には、琵琶湖東北部の長浜市を拠点とした。

 今回はどうするべきだろうか。


 候補はいくつかある。

 先ず、前回も拠点とした長浜市。

 土地勘というほどもないが、一度は滞在した場所だ。ある程度勝手がわかるというストレスの少なさは魅力的だ。

 

 第二に、琵琶湖南東部の守山市。

 実はビワイチは滋賀県が主催するイベントとしても有名だ。その際のスタート位置が、琵琶湖大橋の袂にあるピエリ守山という商業施設である。つまりビワイチをするうえで、公式的なスタート位置といえるだろう。またその近くにある公園には『サイクリストの聖地』の記念碑がある。ここをスタートとするのも良いだろう。


 第三に、湖西地域の大津市。

 言わずと知れた滋賀県の県庁所在地で滋賀県の最大都市でもある。都市部をスタートにすることで、一番車通りの多い地点を朝一にクリアできるのは大きい。


 他にも温泉地を拠点にするか。

 それとも観光地を拠点にするか。

 琵琶湖北側にするか、南側にするか。

 それぞれに利点があって迷ってしまう。


 こういう時は一番大事な部分を確認するといい。

 今回の目的はフルビワイチ。となると、琵琶湖へのアプローチが簡単で近い方がいい。

 

 それで地図を見直してみると、目についたのは『彦根城』の文字。


 彦根城。

 江戸時代の初期に建築され、明治の廃城令を免れて現存する天守のある、「本物」のお城だ。

 また姫路城や松本城と並んで天守が国宝指定されている、滋賀県を代表する建造物である。

 JR彦根駅からも徒歩圏内。お堀のすぐ側をビワイチルートが通っているのもいい。


 彦根城には一度行った事がある。

 城の中へと続く堀を渡る橋の前に、彦根城と掘られた石碑があるはずだ。

 

 最初はなんとなく琵琶湖に行って一周するものと考えていたが、明確なスタートとゴール地点があった方がいいに決まっている。

 フジイチの際には浅間神社の大鳥居をスタート/ゴールとしたのだから、それに倣うのもいいだろう。

 

 私は国宝彦根城をスタートし、日本一の湖を一周して、再び国宝の元に戻ってくるのだ。

 なんとも贅沢な挑戦ではないか。


 こうして私は彦根市を拠点とすることにした。


 

 

 

 





 







 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る