第7話 僕が振られた理由
緋翠さんとの関係が終わって一週間。
僕は一週間大学を休み、今日は久しぶりに出席した。
失恋……と言っていいのか分からないが、心の整理をつけるためだ。
正直今日大学に行くのは億劫だったが、行ってみれば気の知れた友達にも会えたし、5限までしっかり詰まった講義で意外にも早く時間が過ぎ去った。
「よし、帰るか」
僕が講義室から出ようとすると、後ろから声がかかる。
「陽〜!! 久々! ちょい話そうぜ〜!」
聞き慣れた男の声、松戸文則だ。
「おう、いいぞ」
ということで、僕と文則はキャンパス1階にある共有のラウンジで話すことになった。
ここは学生が講義の合間に使用できるようなオープンスペースとなっている。
僕達は空いている席に腰をかけた。
「それで陽、この一週間の欠席、やっぱり失恋か!? 失恋なのか!?」
文則は身を乗り出してくる。
「うるさいなぁ。なんでもいいだろ」
「え、この一週間さ〜代理で出席してやったり、ノート見せてやったりしたのは誰だっけ〜?」
う……っ!
それを言われると弱い。
というかコイツ、元々それをダシにするつもりだったろ。
「あ〜もう、そうだよ、そんな感じだ」
「やっぱそうかー! ま、逆にさ一ヶ月もあの緋翠さんと付き合えただけでも夢みたいな話じゃねーか!」
「そうだよな、俺もそう思う」
「で、原因はなんだったんだ?」
「僕が……好きになってしまったから」
僕がそう言うと、文則は怪訝な顔をする。
「は……? 付き合ってんだから好きなのは当たり前だろ」
あ、そうだ。
彼には付き合ったフリということは言ってない。
伝わらないのも無理はないよな。
かといって今更バラすのも違うし。
「そ、それはそうなんだが……」
「ま〜その発言からして、お前が相変わらず奥手なのもよく分かったよ。実際、この前まで陽が付き合ってたカレンちゃんと別れた理由もそうだったしな」
「え、どういうことだ?」
文則の口から久しい名が出てきた。
僕が前に付き合っていた彼女、カレンちゃん。
友達としか思えない、そう言って振られたんだ。
だから今、彼が行った別れた理由というものに全く心当たりがない。
「カレンちゃんには口止めされてたんだけどさ〜、もう2ヶ月以上経つし、時効だろ」
「いや、時効には早い気がするが」
「まーいんだよ! お前さ、彼女と付き合ってる時、手すら繋いでないだろ?」
「う……っ! 何故それをっ!?」
「カレンちゃんから相談受けたんだよ。陽からのアプローチがほとんどなかったから、私は友達としか見られてないんじゃないかって不安がってた。それからすぐに別れたことをお前から聞いたから、おそらく原因はそれだろう」
そんな……。
僕はたしかに彼女に振られた。
友達としか思えないと。
いや……待て、あの子別れる時泣いてた気がする。
僕は彼女と付き合ってた時、ろくに手も繋げず、君が好きだという想いすら伝えられなかった。
それがカレンちゃんを不安にしたんだとすれば……。
「はは……っ! それじゃああの時振られた原因ってのは、僕の言動にあったわけだ」
「まぁーあの時の失敗はもう取り戻せん。だけど緋翠さんのことはまだ間に合うんじゃねーか?」
「な、なにを根拠に……?」
「あの子さ、この一週間で告白されたの全部断ってんだよ」
彼女が告白を断るなんて、もうこの大学にとって見慣れた景色だと思うのだが。
「それがどうした? モテるのは分かりきってるが」
「緋翠さんって多分ウソつけない子だろ?」
文則にそう言われるとそうだ。
表情にはすぐ出るし、居酒屋で男に声をかけられたときは話したいと思わないなんて言っていたし。
「そうだな、ハッキリした子だ」
「じゃあ断る理由に『好きな人がいる』ってのは本当のことだな」
文則の言葉に一瞬ドキッとした。
もしかして自分のことじゃないかと。
いや、でもそうとは限らない。
元々好きな人がいたのかもしれないし。
「そ、そうだろうな。羨ましい限りだ」
「はぁ……。そゆとこだぞ、陽。どう聞いてもお前のことだろーが!」
「いや、そんなのどこに証拠があるんだ」
「じゃあこれはどうだ? 緋翠さん……その好きな人について、今は喧嘩してるけど、きっとまた仲直り出来る。そう言ってるらしいぞ」
喧嘩か。
あの時、あれを喧嘩と呼ぶならそうだな。
しかし緋翠さんが僕のことを好き?
そんな……彼女も僕を友達だって。
いや、じゃあなんでウソをつけない子が僕の前で照れたり喜んだり、手を繋いだりしてくるんだ?
あれがウソじゃないってんなら、緋翠さんは僕のことを……。
「その顔、ようやく分かったか」
文則はそう言ってニタニタ笑ってくる。
「うるさいぞ」
本当にお節介なやつだ。
だが、今回ばかりは感謝しかない。
僕に大切なことを教えてくれたから。
「で、お前はどーすんの?」
次は真剣な顔で僕に問うてくる。
「ちょっと行ってくるわ」
僕はバッと勢いよく立ち上がる。
「緋翠さんどこいるか知ってるのか?」
「あぁ、この曜日のこの時間……ちょうど最後の講義が終わったところだ」
「ひゅ〜っ! さすが元彼〜っ!」
「茶化すな。でもありがとうな、文則」
「おうよ」と手を振る文則を背にし、心当たりのある講義室へ僕は向かったのだった。
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