第7話 カスミという存在
「いやいや、流石にスミの作る料理の方が美味しいぞ?」
俺は本心で思っていることを伝える
「けど、皆に好かれる料理は霞の方が得意でしょ?」
”皆に好かれる料理”というのは、簡単に言うと、ファミレス等で出てくるような年齢によって好き嫌いが分かれにくい料理の事だ
「んー、それでもスミの方が美味しいと思うけどな」
「それは霞がサボるからよ。今でも偶に出てくる霞の本気の料理は私の料理よりもおいしいと思うもの」
「あ、それわかるかも。たまにスミの弁当よりもおいしいもの作ってくるときあるよね」
そんなことあるだろうか?
今までスミの作った料理が一番おいしいと思っていたから、正直戸惑う
「なんというか、霞の作る料理って温かいんだよね。こう、お母さんの料理。みたいな」
「えっ、ファミレスみたいな味じゃないか?」
「あははは!霞君!それはないよ!霞君の料理って家庭料理って感じがしてすごく安心するんだもん!」
「そうよ、それにそれを言うなら私の料理の方が近いと思うわ」
マジか...ついさっきまで自分の料理の味はファミレスみたいな味だと思っていたのに...
「ってちがーう!」
自己分析が足りていなかったことにショックを受けていると、再起動が終わったのか五味が叫び始めた
「うっさいぞ。いきなり叫ぶな」
「あ、ごめん...じゃなくて!え?スミさんの料理の先生が霞!?」
「んー、先生というか、多分きっかけの方が正しいんじゃないか?」
実際、スミが料理をし始めたのは俺がスミに料理を振舞ってからだった気がするが、スミは勝手に料理が出来るようになっていったし、俺が何かを教えたという記憶はない
「そんなことないよ。霞の料理を食べたときに「あ、この組み合わせいいな」って思ったりすることも多かったんだから」
「普通はそれで自分の料理に入れてもっと美味しくするのは難しいと思うんだがな」
「そう?なんとなく分かるものじゃないの?」
ほんとに、俺はしばらくレシピを調べて必死に練習して身に着けたものを一口食べただけで完全に自分のものにするとか、やってられないな
「あー、スミさんが天才なのはわかってたけど、霞、お前も天才だったのか」
「天才ではないよ。だから必死に勉強するんだよ」
俺は自分に才能があるなんて思ったことはない。なんせ、すごく身近に才能の塊がいたからな
けど、俺はそれが嫌ではなかった。自分と同じ名前を持った幼馴染が活躍をしている
俺が出来なかったことを代わりにしてくれていると思ったら、見れないはずの景色を見ているようで楽しかったし、スミの事は今も尊敬している
「霞は天才だよ。だから私が無事に学校生活を送れてるんだもん」
「うん?スミ、それどういう事?」
スミが突然不思議なことを言い出し、片桐も理解できなかったのか、スミに聞き返していた
「ほら、私は天才だって周りの人に囲まれて褒められることも多いけど、実際に私自身を見てくれる人なんてほとんどいないじゃない?けど、霞は昔から私の事を見てくれてるし、だからこそ私をちゃんと女子高生として学校に通わせてくれてるんだよね。だから霞は天才を守る天才なんだよ」
「あー、それは分かるかも。中学の時に私が話しかける前からスミって天才って言われてたし、先生もスミの事を特別扱いしていたのに、霞君だけはちゃんと幼馴染としてスミと接してたもんね」
「そりゃ、幼馴染だしな」
けど、スミがこんな事を考えてくれていたなんて
俺はスミに比べれば平凡で、いつもスミに手伝ってもらってると思ってたけど、俺も助けることが出来ていたのか
「けどさ、霞ってすぐ隣にスミさんみたいな天才がいて辛くはなかったのか?」
五味が何気なく聞いてきた質問で、スミが固まったのがわかる
きっと、今まで表面上で仲良くできていても心の底では恨んでいるのではないかと思っているんだろう
「辛くなかった」
「...って言えたらいいだけど、小学校くらいの時は正直辛かったぞ」
俺の一言にスミの顔が青ざめるのがわかる
「同い年で自分と同じ名前の女の子になんでも負けていたからな。けど、何か勝てるものを探すために色々挑戦していたのは楽しかったし、そのどれにもスミがついてきてくれていたから寂しいとも思わなかったな」
まだスミの顔は青いままだ
「で、色んなことに挑戦して、色んなことでスミに負けてって繰り返してるうちにちょっと優越感が出始めたんだよなぁ」
「...優越感?」
顔を青くしたまま、不思議そうにスミが聞いてくる
「そ、俺らの周りの人はスミの事を天才だなんだっていって、張り合うことをしてなかっただろう?けど、俺はそんな天才と張り合えてるんだって思えたら凄いことだなって思ってさ」
「中学に入るころには、スミに勝つことよりも、スミと一緒に新しいことに挑戦している事が楽しかったし、俺がつまずいてもスミが乗り越えてくれているのを見たら俺の見れない景色を見せてくれてるようで興奮したなぁ」
「じゃあ、今私と一緒にいることはつらくないの?」
「もちろん、今も一緒にいると楽しいし、今日も次は何に挑戦しようか考えてたくらいだぞ?」
俺がここまで言うと、スミの顔も段々と元に戻ってきて緊張が解けたのか、肩から力が抜けていた
「よかったぁ」
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俺と彼女はドッペルゲンガー...たぶん あちゅ @achunatsu
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