第5話 お昼会談

「な、なんで?やっぱり私と関わるの辛い?」


青ざめた表情でスミは俺に聞いてくる、さっきの今でこの話題だから敏感になっているんだろう


「違うって、さっきも言ったけど、俺も友達はいるの。そいつに今日昼飯を誘われたんだが、明日食べようって約束をしてきたんだよ」

「本当?霞に友達なんて出来たの?」

「お前、失礼だな。ちゃんといるよ一人だけど」

「やっぱり学校で一人で過ごしすぎてついには幻覚まで?」

「スミ...少しは霞君の事を信用してあげたら?そこまで否定されたら霞君が可哀想だよ?」


片桐がスミを宥めながらそう言う


本当だぞ、下手に暴言を吐かれるよりも心にクルものがある


「じゃあ霞の言う友達って誰の事よ!名前を言いなさいよ!私はこの学年の生徒の名前全員知ってるんだからシラは切れないわよ!」

「さらっと才能を発揮すんなよ。といっても、あいつも有名人だから片桐も知ってると思うぞ?」

「ほんと?私が知ってる男子なんてほとんどいないけど」

「ほら、入学して事件を起こして有名になった五味だよ。五味健吾」


俺が彼の名前を言うと、二人ともやはり噂を知っていたのか、すぐに誰だか理解したようだった


「あ~彼かぁ、彼もすごい嫌われ者だもんねぇ」

「そうね、しかも冷遇されてる期間だけで言えば霞よりも長いものね」

「そ、で、偶々気が合ったから適当に話す仲になったんだよ」

「なるほどねぇ、確かに二人ならではの関係性だろうね」


俺が友達の存在について話すと、しばらくスミは考え込んで


「ねぇ、良ければ五味君もここに連れてこれば?」

「え?」


正直、この提案は全く想像していなかった

というのも、基本的にスミは人に疲れている姿を見せたがらない

勿論、運動した後とかは別だが、精神的に疲れている場面は俺と片桐くらいにしか今までも見せたことはないだろう


そして、昼休みにこの教室で昼飯を食べてるのも、その精神的な疲れを癒すための時間だ。だからこそ、休むことが出来なくなるような提案をしてきたことに驚く


「ここにって、スミ良いの?五味君が来たらスミが休めないんじゃ」

「う~ん、なんとなくだけど、霞が一緒に行動している人なら大丈夫かなって。霞って私以上に人と関係を持ちたがらないし」

「たしかに、霞君が仲良くしている男子とか見たことないもんね」

「まぁ、五味の事はある程度信頼してるけど、正直そこまで踏み込ませていいかどうかはわからないぞ?だから今日も俺の行先については内緒にしてきているわけだし」

「多分大丈夫だよ。それに、もし五味君が私の姿を他の人に流すようなら、それはそれで私が気を付けることが無くなるから学校生活で配慮をする必要なくなるし」


確かに、もし五味がここでのスミについて外に漏らすようなことがあれば、スミはこれ以上学校生活で気を使う必要が無くなるから肩の荷は下りるだろう...ただ


「もしそれでスミに被害が被るようなら、俺は五味を本気で潰す必要が出てくるんだよな」

「ちょっと霞君、怖いこと言わないでよ。さっきも言ったけど、霞君の全力なんて見たくないからね?」

「ま、それはこれから先の状況次第だな」


にしても、スミがそこまで許すとは、こういう時のスミの感覚って意外と大丈夫な時が多いし、五味に関してもここに連れてきても大丈夫なのかもしれないな


「わかった。じゃあ明日一回ここに五味を招待するか」

「あ、だったらついでにサークルに入ってもらえば?先生からも会員を集める努力だけはしてくれって言われてるし」

「確かにな、それならあいつがここに来るのも楽になるし、問題が起きたときも対処がしやすいな。明日提案してみるか」


なんにしても、スミが許可を出しているのなら連れてきても大丈夫だろう

それに、連れてくる利点もある


単純にスミの事を知っている人間が増えればスミをカバー出来る人間が増えるという事だ

学校内で何か変な噂が出たり、スミに恨みを持った人間が出たときに、俺と片桐だけではアンテナが足りない時があるだろう

そんな時に少しでも人がいれば、早急に認知することが出来る


ついでに言うと、五味は嫌われている割に情報収集能力が優れているので、周りの反応をすぐに知れるというのはかなりありがたい

というか、あいつも嫌われてるのにどうしてあれほど情報を持っているのか本当に謎である


「じゃ、明日は五味もここに連れてきて4人で昼飯を食べるか」

「だね、五味君は噂は知ってるけど、実際どういう人か知らないから楽しみだよね」


片桐が嬉しそうに言うが、こいつの噂に流されずに自分の見たものを信じるというスタンスはすごいと思う


実際、俺が中学生の時も片桐は最初から俺の事をカスと呼ばずに名前で呼んできて、しっかりと俺とコミュニケーションをとってくれていた


噂に流されないというのは実際にはかなり難しいものだ。その人と話す前に噂を聞けば、初めて話すときにはその印象が先行するし、話す仲でも噂を聞けば少なからず相手に対して何か思うところが出てくるだろう


だが、片桐は言葉通りに「自分の見たものを信じる」を徹底しているので、俺とも不通に話せるし、スミが信頼を置ける人間なのだ


ほんと、こういう人間ばかりだと学校生活はかなり平和になるんだがな

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