第2話 香澄と霞
本宮香澄という少女について語るとなると、「完璧」という一言に尽きるだろう
容姿端麗、成績優秀、それに加えて八方美人の性格良し、男女ともに仲が良くクラスどころか、学校中どこにも敵を作らないという完璧具合だ
「なぁ、スミ。なんで隣を歩くんだ?」
「えー、良いでしょ別に、家出るときに出会ったんだからそのまま一緒に行っても問題ないと思うんだけど」
「けど、お前と一緒に行くと面倒なんだけど」
「なによ、霞は私と一緒に行くのがそんなに嫌なの?」
「嫌とかじゃなんくて、面倒なんだよ」
俺達は名字名前ともに同じなので、呼び方を香澄に対しては「スミ」、霞に対しては「霞」というので統一している。これは、俺達の家族の中でも統一されている
「なによ面倒って」
「だってお前有名人じゃん、学校の近くになったらいつも人に囲まれてるしよ」
「あら、嫉妬?」
「んなわけ、俺は人が多いのが苦手なんだよ」
「だったら、人が集まるまでは一緒に行きましょ!学校の近くになったら離れてもいいから!」
それなら、ということで最寄りの駅から二人で電車に乗り移動する
正直朝の電車は通勤時間とかぶっていて人が多くて苦手なのだが、通学手段はこれくらいしかないので我慢するしかない
しばらく電車に揺られていると俺とスミが通っている高校の最寄り駅に到着した
「やっぱり朝の通勤時間は地獄だな」
「だねー、流石にあの人の量は疲れるものがあるよ」
いつも明るくふるまっているスミでも堪えるものがあるのか、表情には疲れが見えた
それから、2人で駅近くのコンビニで飲み物を買って学校に向かって歩き始める
ちなみに、俺はアイスコーヒー(ブラック)、スミは甘ったるいカフェオレだ
「毎回思うけど、良く朝からそんな甘ったるいもの飲めるよな」
「そういう霞だって、良く朝からそんなおいしくないもの飲めるよね」
俺としては、平日の朝という気分を上げようと思っても上げれないような時間を乗り切るためには、渋いもので強制的に脳みそを起こすしかないと思っているのだが、スミにとっては、朝は甘いものを取って幸せな気分からスタートするのが良いらしい
「じゃ、学校が近づいてきたから俺は遠回りしていくから」
「ぶぅ、毎回思うけど、なんでここまで一緒に来ているのに分かれるかなぁ」
「何回も言ってるだろ、俺は人が多いのが苦手なの。なのにお前の周りは犬かってくらい人が集まるじゃねぇか」
「それは私のせいじゃないもん」
「それに、お前と一緒にいると面倒な事にもなるし」
「ん...あれは私も止めるように言ってるんだけど、なかなか聞いてくれなくて」
「そりゃそうだろ、あれはお前一人でどうにかできる問題じゃねぇよ」
「...ごめん」
「謝るなって、お前のせいじゃないし」
「でも...」
俺とスミの雰囲気が悪くなってきたところで遠くから声が聞こえてきた
「おーい!香澄ー!おはよー!」
「ちっ、逃げ遅れたな」
遠くから走ってきたのは、香澄のクラスメイトの女子生徒だった
そして、そいつが俺の姿を見た瞬間
「げっ、香澄またそいつに絡まれてるの?嫌なら嫌ってちゃんと言わないと!」
「別に嫌ってわけじゃ、それに」
「香澄は優しいからそう言ってるだけだよね、わかってるよ!」
「だから、そういうわけじゃ」
「香澄が言いにくいなら私が言ってあげるから!」
「ちょっ、やめっ―」
「ねぇカス!香澄に付きまとうなんて最低ね!どうせ香澄が優しいからってつけあがっていたんでしょう!?香澄は慈悲で付き合ってくれてるだけなんだからさっさと消えなさいよ!」
なんともまぁ、散々な言われようだ
ただ、ここで言い返したところで俺に良いようにはならないから大人しく聞いておこう
「わかってるよ、それくらい。俺はさっさと学校に行かしてもらうよ」
「ふん!わかってるなら、これから付きまとわないことね!」
それだけ言うと彼女は満足したのか、ふぅっと息を吐きだした
俺もこれ以上会話をするつもりはなかったので、学校に向かって歩き始める
その時に一瞬だけスミの暗い表情が見えた
(あとでフォローしないとな)
彼女は完璧な少女ではあるが、普通の女子高生でもある
自分が原因で俺が傷ついたと考えれば、どうしても罪悪感が生まれるものだろう
それも、幼馴染ともなれば
◇ ◇ ◇
学校に着くと、周りの生徒から冷たい視線を向けられる
ある種、これが俺の学校生活の日常でもあった
今日の視線はいつもに比べても鋭く感じるが、どうせ今朝の出来事を見ていた連中か、当事者である俺に注意してきた女子生徒が周りにリークでもしたんだろう
「おいカス!いい加減本宮さんに絡むのやめろよ!同じ名前ってだけでも彼女に迷惑をかけてるんだからよ!」
ところどころから、俺に対する罵声が聞こえてくる
この学校において、俺は名前で呼ばれることはない、というか、中学くらいからごく一部の人間を除いて俺の名前を呼ぶ奴に遭遇したことはない
というのも、誰もかれも容姿端麗で完璧な香澄を本物として扱い、凡人の一人でしかない俺の事を下の名前から「カス」と呼ぶようになったのだ
この呼び方が誰から始まったのか、いつ始まったのかは今となっては俺もわからない
いつの間にか、その呼び名が浸透し、俺を知っている人間はその呼び名で呼ぶようになった
一度この呼び名が浸透した時にスミが止めるように言ったことがある
だが、
「あのカスにも優しくするなんて、なんて完璧なんだ」
という評価になるだけで、誰も俺に対する待遇を変化させるものはいなかった
まぁ、待遇が変わらなかった原因はもっと別にあるのだが
簡単な話だ、俺がその蔑称に対して不満を言ったことが無かったからだ
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