第1話 目覚めはいつでも最悪

「くぁ、今日も学校かよ...だる...」


毎朝自分の部屋のカレンダーを見ると、学校のある日だと理解して絶望する


俺の朝は6時に始まる。というのも、朝ごはんに加え、昼ご飯も作らないといけないからだ

別に親がもういないとか、作らされてるとかじゃない。ただ、自分で作った方がおいしいし、安く済むからだ


勘違いされたくないけど、俺の料理がとてつもなくおいしいわけじゃない、ただ、俺の母親が作る料理がめちゃくちゃ不味いだけだ


やれカレーを作ったっていうのに、「カレーは辛いものよね!」とか言いながらカレーの中に七味唐辛子を一瓶全部いれてくるし、具材は唐辛子をそのまま入れたりするので本当に辛くなるし、玉ねぎの甘味も肉の触感も、ジャガイモの存在も全てカレーの中からなくなってしまうのだ。そんな料理しかできない母の料理を美味しいといえるような純粋な子供には育たなかったので、俺が代わりに料理をするようになった


「今日は軽めにすませるか、弁当の中身も適当に冷蔵庫の中の物を使うか」


俺の家には炊飯器が無いので、圧力釜で米を炊きながら冷蔵庫を開くと、お湯で温めるだけの鮭の切り身と、卵を取りだす


鍋の中でお湯が沸くのを待ちながら、フライパンを使って目玉焼きを3つ作る、うちのキッチンは3口なので、これ以上同時に火を使うことはできないが、目玉焼きが出来るまでは時間がかからないので大丈夫だろう


ついでに、なんで目玉焼きを3つなのかというと、自分の分と、いまだに起きてこない母親と父親の分も一緒に作っているからだ


別に家族の分も作ることに不満は無いし、おいしい料理のためなら喜んでやるけど、それとは別に俺だけ朝早くから起きて両親が寝ているという状況にムカつくことが無いかといえば噓になる


ということで


「久々にやるか」


両親が寝ている状況には定期的にムカつくことがあるので、そういう時にはストレス発散として俺がその時に思いついた案で両親を起こすことがある


今日は偶々目についた新聞紙を折って父親の寝ている部屋に向かう


パァーン!


「な、なんだぁ!?銃撃か!?」


皆も小学生の時やったことがあるだろう紙鉄砲だ


俺が小学生の時に海外に単身赴任をしていた事がある父親は発砲音に関しては敏感になっているので、かなり効果がある


「おはよう親父、気持ちのいい朝だな」

「そうだな、起こし方さえ違えば良い朝になっただろうな」

「さっさと起きろ、もうすぐご飯も炊けるぞ」


圧力釜でご飯を炊くことの一番の利点は時間が短いことだ。炊飯器で炊くと早くても30分近くかかる物が多いが、圧力釜なら15分ほどで炊きあがる

だからこそ、朝起きてから炊き始めても短時間でふっくらとしたお米が炊ける


「そうかって、まだ6時半じゃないか、俺が家出るまで1時間以上あるんだが」

「奇遇だな、俺もだ。なんなら俺の手伝いをしてくれてもいいんだぞ」

「...いや、辞めとくよ」


そういうと、親父は朝の支度をし始めたので俺はその隣の部屋に向かい、その主である母親を起こす


といっても、この母親、かなりの音量でも寝続けるほど眠りが深いので単純に起こすのは父親よりも難しい...だが


「早く起きないと朝飯抜きにするぞー!」

「それはダメ―!はいっ!起きました!」


こうして朝ごはんをネタにするとすぐに起きる

母親曰く、息子の作った朝ごはんを食べないと一日を過ごす活力が足りないのだそう


「まったく、いい加減朝起きる週間くらいつけてくれ」

「別にいいでしょ~息子に起こしてもらえるのもいいものなのよ」

「なら明日から起こさなくてもいいか?」

「それはダメよ!そんなことされたら遅刻しちゃうじゃない!」


なんなんだこの母親は


「とにかく、もう朝ごはん出来るから早くしたくしろよ」

「はぁ~い」


こうして朝のストレス発散としてストレスの元凶である両親を起こして朝ごはんを盛り付ける


「ほれ、出来たぞ」


朝の支度を終えた親二人に対して、準備していた朝ごはんを差し出す

ついでに、前の日から準備していた総菜たちを弁当の中に入れて、長持ちするように保冷袋の中に保冷剤と一緒に入れておく


「お~今日も美味しそうだな」

「簡単なものだけどな」

「それでも作ってくれるだけでも嬉しいのよ」


いつまでたっても褒められるという状況は苦手だ

褒められるのはうれしいのだが、どこかで素直に受け取れていない自分がいる


「ふぅ、ご馳走様」

「なんだ、霞食べるの早いな。もっとゆっくり食べればいいのに」

「んなこと言われても、俺は親父と違ってもうすぐ出ないといけないの」


時計はもう7時半を指している

ここから学校までは電車で30分くらいかかるので、もうじき出ないと学校に間に合わなくなってしまう


「じゃ、俺はもう出るから、いつも通りそこの黒い袋が親父ので、黄色いやつが母さんのだから」

「はーい」

「りょうかーい」


2人からの返事を聞いた俺は玄関を開けて外に出る

すると、隣の家からも同じようにドアが開く音が聞こえる


「あら、おはよう!」

「げっ、なんで同じタイミングで出てくるんだよ」

「いいじゃない!今日はいい天気だし、いい日になりそうね!」

「俺にとっては面倒くさい一日になりそうだよ」


隣の部屋から出てきたのは、俺の幼馴染でいつでも俺の理想である本宮香澄だった

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