第11話 失った分
キルティアのいた惑星の名前は、惑星・ダリオンと言った。何百年も前に滅びている。
キルティアと今の夫さんは、その惑星ダリオンの生き残りの一部だ。他の人たちは、別の世界へ行くことを選んだ。
やがて、馬車が、東の月の都の一番有名な、大きなオペラ会場に到着した。
「ここね」と、ヴェロニカがキルティアの手をとって、馬車からおろした。
二人はルフール・オペラ会場に入って行った。従者と共に。
「姫様、いい景色ですね」と、ルーシェがバルコニー席の後ろに座って、ヴェロニカの耳にこっそり耳うちした。
「そうね、オペラはいつもで楽しいわ」と、ヴェロニカ。扇子で顔を隠している。
「ヴェロニカ、飲み物頼まない?」と、キルティア姫。
「1階の大混雑を通り抜けてきたから、疲れちゃった」と、キルティア。
二人でコーヒーを頼み、ヴェロニカとキルティアは幕が上がるのを楽しみに待った。
今日の題目は、「憂愁のセラータ姫」というものだった。
幕が上がり、劇役者たちが、手をつないでお辞儀をする。会場が膨大な拍手で包まれる。
会場には、音楽担当のオーケストラまで来ていた。
ヴェロニカとキルティアは、ドキドキしながら開演を待った。
やがて、芝居が始まった。パンフレットにも、簡単な内容書いてあるが、ヴェロニカとキルティアは、たまにオペラグラスで役者さんを見つつ、芝居を楽しんだ。
『失ったものは、もう二度と帰ってこないのですか?』と、劇の中で、セラータ姫役の女優が言った。
『失ったものは、君の心の中に在る』と、ヒーロー役の役者が、音楽に乗って、歌うように言った。
2時間の芝居だった。芝居が終わり、役者たちが再び前に出そろって、手をつないでお辞儀するのを、ヴェロニカとキルティア姫は拍手で見送った。やがて、カーテンが降りる。
「今日の演目も、素晴らしかったわ」と、キルティアが言った。
「そうね、たまにはこういう憂さ晴らしはしたいわよね。深い内容だったわ」と、ヴェロニカが言った。
「ヴェロニカはどう思う・・?」と、キルティアが言った。
「?どうしたの、キルティア??」と、ヴェロニカ。
「失ったものは、やっぱり一度失えば帰ってこないと・・・そう思う??」キルティアも、惑星で両親を亡くしている。
「・・・失った分、人は優しくなれるんじゃないかしら」と、ヴェロニカが言った。
「そうであれば、世界は平和で包まれるわね」と、ヴェロニカが微笑んで言った。
「そうね」と、キルティアも遠い目をして言った。
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