第二章 キルティアとセンディーヌ姫
第10話 喪失の赤いドレス
第二章 キルティアとセンディーヌ姫
翌日のキルティア姫からの誘いは、お忍びで、町のオペラを見に行こう、という誘いだった。
センディーヌは、用事がある、と言って、断った。育児に専念しているのだろう、と二人は悟った。
「ヴェロニカ、歌劇場の、バルコニー席で見ましょう。席の予約とってるの」と、キルティアが楽しそうに言った。キルティアは、とりあえず育児はひと段落しているらしい。手紙に書いてあった。
「今日はお忍びだから、貴賓席から見られないのが残念だけど、なかなか眺めはいいの」と、キルティアが言った。
「姫様、」と、キルティアの召使いが言った。
「用意が整いました。ヴェロニカ様のお忍びの準備は大丈夫でしょうか、ルーシェさん」と、召使いが言った。
「こちらは万端ですよ、」とルーシェがにこやかに言った。
ヴェロニカとキルティアは、ともに、貴婦人の証拠である仮面をつけている。
「これならばれないわ、」とヴェロニカが言った。
ヴェロニカとキルティアが微笑む。二人の、どこかの公爵夫人か誰か、と思われるだろう、と二人は想像した。
なにより、ヴェロニカは、「この世界の、第32代リーリア姫は決して着ない」と噂されている、赤のドレスを着ていた。これなら、ヴェロニカと疑われることはまずない。
だが、ヴェロニカは、赤のドレスなんてやっぱり着てこなければよかった、と後悔した。ドレスの色が鮮やかになればなるほど、失った惑星・ティアドロップスのことが対照的に思い起こされる。
なんとなく、死者に対し、赤の服を着ることが、痛みというか、罪悪感に満ちて来る。
ヴェロニカは心底、この赤のドレスを脱ぎ捨てたくなった。
「ヴェロニカ、どうしたの??」と、馬車の中で、ぼーっとしていたヴェロニカに対し、鮮やかな綺麗な緑のドレスを着ているキルティアが尋ねた。
「私って、本当にダメね、」と、ヴェロニカがぽつりと言った。
「赤は私の色じゃない」と、ヴェロニカが寂しそうに言った。
「似合ってると思うわよ」と、キルティア姫がヴェロニカを小突いて言った。
「ありがとう、キルティア。でも、赤のドレスは、心が痛むわ。亡くなった人のことを思い出すとね」
「ああ、確か、惑星・ティア・・・ティアドロップス、よね??その気持ちは、私も分かるわ」と、キルティアが言った。
キルティア・ヴァン・デューセン姫もまた、失われた、滅びた惑星の出身だった。惑星ティアドロップスではなかったが。
センディーヌ姫とも違う惑星の出身だった。だが、この二人・・・キルティア姫とセンディーヌ姫は、姓が同じだ。こちらの世界では、親戚同士ということになっている。
「そういえば、キルティアも、赤のドレスを着てるの、あまり見たことないわ。やっぱり、キルティアも、そんなこと考えるほう??」と、ヴェロニカが聞いた。
「・・そうね、意識しない、と言ったら、嘘になるかしら」と、キルティア。
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