第7話 行方不明?になった月の使者たち
それを見て、今日は断ろうかしら、という思いは、自然となかった。あの温かい胸の筋肉に、また触りたかった。
ヴェロニカは湯あみをしたあと、長い髪の毛を整え、ルーシェに冷たい飲み物を持ってきてもらった。
夜の少し残った公務を終わらせ、夕食を食べてしまい、ヴェロニカはキルティアとセンディーヌに手紙を書いた。
明日、午後から一緒に芝居でも見に行かないか、という誘いの手紙であった。
「姫様、夜も行かれるのですか?」と、ルーシェが物珍しそうに言った。
「ええ、ルーシェ、王からお誘いを受けているから」と、ヴェロニカが手紙を書きながら言った。
「では、0時までに、月の使者のお二人を呼んでおきましょう」と、ルーシェが言った。
ヴェロニカは、明日の分の公務を少ししながら、疲れと眠気からうとうとしだした。
その時、バン!とドアが開き、ルーシェが部屋に入って来た。
「姫様、月の使者のシャトレーゼとルーナがいらっしゃらない。行方不明だそうです」と、ルーシェが意外そうに言った。
「なんですって??」と、ヴェロニカがはっと目を覚まして、けげんそうに聞き返した。
「大変だわ、誰かに誘拐されたのかしら」と、ヴェロニカが心配そうな顔をする。
「今日の会議でも、決まらなかったな」と、ヒノミヤが言った。
「そうだな」と、ケン。二人は、西の月の都の、それぞれ法務大臣と外務大臣だった。
「王の機嫌も悪そうだったし、ことは簡単に進まんな」と、ヒノミヤが言う。
「ヒノミヤ法務大臣、折り入ってお話が!!」と、王アイレスの召使い・シモンが言った。
「どうした、シモン」
「月の使者のマーシャがいないのです。誰に聞いても、居場所が分からないと。行方不明です」と、シモン。
「マーシャがいないと、王が東の月の都に行けないじゃないか」と、ケン。
「シモン、このことは内密にして、あとは俺らに任せろ。マーシャは俺らで見つける」と、ヒノミヤがシモンにチップを握らせて言った。
「おっと!」と、ケンが言った。そのあと、ニンマリと笑い、
「ヒノミヤ大臣、今日が何の日か、私たち忘れているのではないでしょうか」と言った。
「!?ケン大臣、さっぱりわかりませんな」と、ヒノミヤ。
「9月17日、中秋の名月の日です、彼ら月の使者の精霊たちが、女神イリス様のもとで、宴会を開くと言われている日ではありませんか!」と、ケン。
「そうだった」と、ヒノミヤが呆然として言った。
東の月の都でも、同じようなことが起きていた。
ルーシェが、厨房の召使いから、今日は中秋の名月の日だから、精霊さんたちはいないでしょう、と言ったのだった。
「今日は、好きなだけお召し上がりください」と、女神イリスが両手を広げていった。
パーティー会場のようなその空間で、10個の世界にいる月の使者たち・約100名が、女神イリスからの御馳走を食べていた。
「普段きちんと働いてるんだから、これぐらい許されなきゃね!」と、シャトレーゼが、プリンを食器に取り、ルーナに言う。バイキング方式なのだ。
「私は焼肉!」とルーナが、ローストビーフを皿に取る。
「これはどうも」と、一人の男性が、二人に声をかけた。西の月の都の月の使者・マーシャだった。
「あら、マーシャさん」と、ルーナ。
「精霊たちにもご加護を下さる女神イリス神は、心の温かい人ですね!」と、イリス神信奉者のマーシャが、ポテトサラダを皿についで言った。ワインも持っている。
「女神様にかんぱーーい!!この世界にかんぱーーい!!」と、月の使者たちが、各々の選んだ飲み物の杯を上に掲げる。
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