第4話 50年間

現在午前11時、午後0時まではあと1時間あった。ヴェロニカは、公務のハンコ押しを終え、ふう、とため息をついた。

 大聖母・女神イリス様の話では、ヴェロニカは、リーリア姫としての公務の期間・50年間を終えれば、好きな人と結婚していいという話だった。

 東の月の都は、山茶花の都と呼ばれていた。城の周りが、山茶花でいっぱいの花壇があったことに由来する。

 リーリアは、先日届いた、ディアスからの手紙を開けた。恋文であった。

 兄ではなく、自分を結婚相手に選んでほしい、との内容だった。リーリアは、それを破いて暖炉に投げ込もうかとも思ったが、ディアスと過ごした日々を思い返し、その手紙は、机の隠し棚にそっと入れておくことにした。

 確かに、剣の腕は、弟であるディアスの方が、アイレスより勝る。だが、リーリア・・・ヴェロニカは、穏やかで優しいアイレスに恋をしていた。惑星ティアドロップスにいたころから。

 西の月の都は、城がヒスイでできていることから、「ヒスイの都」とも呼ばれていた。

 やがて、コーヒーを飲んでいると、あっという間に午後0時が近づいてきた。

 ルーシェを伴い、リーリアは月の使者・・・ヴェロニカの友人でもあった・・・の二人、シャトレーゼとルーナによって、西の月の都にやってきた。

 貴族と見せかけて、馬車に乗って、リーリアはルーシェと共に、ヒスイの城にやってきた。

「ヴェロニカ、待っていた」と、アイレスが言って、両手を広げて歓迎した。

 通されたのは、アイレスの執務室だった。アイレスは、西の月の都の王だった。

 アイレスと、ヴェロニカと、ルーシェ以外、誰もいない。月の使者の二人は、応接間で待っている。

「愛しいアイレス」と言って、ヴェロニカはアイレスの頬にキスをした。

「ヴェロニカ・・・」と言って、ルーシェの前にもかかわらず、アイレスは熱烈なキスをヴェロニカにしてきた。

 誰かの視線を感じる。扉のわずかな隙間から、ディアスがその様子を見ていたのだ。


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