第25話 その努力が、未来に変わる
「はぁぁぁ……結局そういうオチかよ」
「アイツなりに考えた結果だろうが、そういう事言わんでくれ」
「いや、まぁ良いんだけどさ」
翌日、昨日の終着点を律也に話してみれば。
相手は非常に呆れたため息を溢しながら、ジトッとした眼差しを向けて来るのであった。
「でも、どれも中途半端な感じだな」
「ま、確かにな。答えは出てないって感じ」
俺としても、ここまで協力してくれた友人には良い知らせをしたかったのだが。
今の俺と永奈の関係は友達以上恋人未満。
これまでの様に距離を詰めても相手は逃げなくなったし、むしろくっ付いて来てくれるので俺としてはだいぶハッピーになったのだが。
「でも、在学中っていうか。一緒に居る間は何でも言う事聞いてくれる、みたいな事言われたんだろ? かぁぁ……永奈ちゃんも大胆だねぇ。男子高校生にそんな事言ったら、翌日からどうなるか分かったもんじゃないのに」
思い切り溜息を溢しながら、律也がそんな言葉を溢した瞬間。
コチラとしては、ビシッと固まる他無かった。
そうだよね、やっぱりその台詞は俺達みたいな思春期には些か刺激的だよね。
などと思いつつ、固い動きで話題を逸らそうとしてみれば。
相手は、此方をジッと見つめた後。
「ヤッたのか」
「……」
「ヤッたんだな?」
「……いえ、そのですね。違うんですよ」
「そう言う所だけ展開が早ぇんだよ!」
教室の中で、思いっきり頭を引っ叩かれてしまった。
何だ何だと周りから視線を向けられるモノの、此方としてはモゴモゴと言い訳する他無く。
「そ、それこそお前等はもっと早いだろうが。俺等なんかより、ずっと進んでるんじゃないのか?」
売り言葉に買い言葉とばかりにそう返してみれば、律也は大きなため息を吐きながら肘を付き。
「アイツは、そう簡単な女じゃねぇよ」
「おいテメェ、永奈が簡単だって言いてぇのか」
「ぶわぁぁか、十年近く一緒に居てやっと落とした女の子だろうが。簡単なんて言う訳ねぇだろ」
どうやら俺の意見は見当違いだったらしく、強めのデコピンを頂いてしまった。
しかし、簡単な女じゃない……か。
美月ちゃんの行動を見ていると、結構ノリが良かったり、一気にガンガン行きそうに思えてしまうのだが。
「見てみろよ、ここ最近のアイツ。ほんっと、やってくれるよ」
そう言いながらスマホを見せて来た律也は、思い切り疲れた様子。
覗き込んでみれば、そこには。
「美月ちゃん……だよな?」
「そ、アイツだよ。ったく、撮り手の実力が被写体に負けてるんじゃ話にならねぇよ」
そこに映っていたのは、怪しげな笑み微笑を浮かべる美月ちゃん。
いくつかの写真を見せてもらったが、どれもモデルかっていう程に綺麗に映っている。
いや、律也の撮り方も凄いんだろうが。
なんだろう、この子の場合写真の雰囲気を全部呑み込む勢いで存在感が強いのだ。
「すっっげ……」
「だろ? だから俺も本気で挑まなきゃ勝てねぇんだよ」
そんな言葉を洩らしながら、彼は彼女の写真を睨みつける様にして見つめるのであった。
と言う事は多分、コイツも本気で彼女に挑むらしい。
写真という媒体で、クリエイターとしての本能を剥きだしにしているのだろう。
「お前も、すげぇよ」
「凄くねぇよ、だから苦戦してんだ」
相手は悔しそうに舌打ちし、美月ちゃんの写真を眺めていた。
何と言うか、凄い。
一口に恋人だなんだと言っても、色んな形があるのだろう。
俺と永奈の形は歪と言うか、お互いに保険を残そうとビクビクしている感じはあるが。
多分コイツ等の場合は、バチバチに戦っているのだろう。
写真に写っている美月ちゃんは、それくらいに挑発的な表情をしているし。
「とりあえず、上手く行ってるって事で良いんだよな? なんて言うか、二人は“合ってる”よ」
「ははっ確かに。美月に煽られるたび、分からせてやるって感情が湧くわ。ぜってぇ次のコンテストで賞を取る。そんでもって、俺の実力を認めさせてマジで惚れさせてやる」
何と言うか、何処のカップルも色々ある様だ。
俺は現状、カップルとは言えないのかもしれないが。
それでも、永奈との関係は良好なのだ。
だからこそ、今度は。
「何かあったら、相談しろよ?」
「おうよ。あ、そっか。お前等に頼れば良いのか……なぁ今度の休み付き合ってくれないか? 何かもうコイツばっかり撮ってると、賞貰っても私のお陰だとか言われそうで癪なんだよ」
なんて事を言いながら、友人は撮りたい写真の例を挙げていく。
ソレを聞きながら、今度は何処に行こうか、皆で行くならまたバイトして~などなど。
様々な話をしながら、日常が過ぎていく。
本当にいつも通り、だが前とはちょっとだけ違う。
俺と永奈、律也と美月ちゃん。
それぞれ関係が変わって来たからこそ、前よりずっと楽しいと思えてしまったのだ。
こういうのも、確かに……悪くないもんだ。
※※※
「おい俊介」
珍しい事に、晩酌していた親父が俺の部屋へと訪れた。
「ん? どったの親父」
酔っぱらって~という訳でも無さそうなので、普通に声を返しながら振り返ってみた訳だが。
相手は何やら紙袋を抱えており。
「なにそれ」
「コレ、やっておけ」
それだけ言って、例の物を投げつけて来たかと思えば。
「おい……何だよコレ」
「見て分かんねぇか? 大学とかの入試で出る問題集だ」
袋の中から出てきたのは、間違いなく“そういう類”の問題集。
いやいや待った。
だってウチの家庭は親父しか居ない。
普通の家とはちょっと違うのだ。
だからこそ、俺に求められるのはより早く親元を離れる事か、もしくは働いて金を作る事だろうに。
なんて事を思いながら、ジッと親父を睨んでみれば。
「大卒って資格はな、意外と役に立つんだよ。俺みたいな馬鹿でもソレがあったからこそ、今みたいな給料が貰えてるんだ」
「そりゃ、そうかもしれないけど……」
言葉に詰まりながらも、ペラペラと問題集を捲る。
やっば、これ結構難しいぞ。
高校のテストでも、平均点ばかり取っている俺には解けない問題の方が多そうだ。
「知ってんだぞ、バカタレ。お前、本気出してねぇだろ」
それだけ言って、親父はベシベシと俺の頭を叩いて来る。
いったい何を言っているのかと、本気で思ってしまったが。
「手話だってな、小学生のガキがすぐさま覚えられる様な代物じゃねぇんだよ。つまりお前にはソレだけの能力と集中力があるって事だ。だったら、最後くらい本気でやってみろ。それなりの大学を出りゃ、将来の道が増える。ほんのちょっとの違いで、人生変わるぞ。学生”最後”だ、数年くらい使っても文句ある奴は居ねぇよ」
そんな事を言いながら、呆れた瞳を此方に向けて来るのであった。
「でも、ホラ。金掛かるし」
「出世払いだな、貸しといてやるよ」
「おぉっと、奨学金制度の実家バージョン」
「だな。だがやるなら本気でやれ、お前なら出来るだろうさ。そしたら……永奈ちゃんも安心して暮らせんだろ」
ハッと笑い声を溢しながら、親父は俺の部屋を出て行った。
ちょっとした事で、選べる道が変わる……か。
確かに、その通りかもしれない。
高卒と大卒での違い、知識量の差。
そういうのは確かにデカイ、社会的な信用問題としても。
実直にこなしたなら、大きな差が出る事だろう。
そんでもって、そういうのは今後の人生にそのまま関わってくるのだ。
だったら。
「ちょっとばかし、やってみますか」
永奈を安心させてやる意味でも、俺は稼ぎ頭にならなきゃいけないんだ。
なら、やれ。
若い内なら~なんて言葉を、散々耳にして来たが。
人生において、もっとも若い瞬間ってのは今現状に他ならない。
なら、今やれ。
今できる事を全部やって、今後に備えろ。
それがあるかないかで、未来が変わるなら。
俺は、永奈を安心させてやる為だったら。
なんだって頑張れるんだ。
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