第16話 認識
「あぁぁぁ……コレですよ」
「旅行バレ、早かったなぁ……」
沖縄から帰って来た翌日、知らん顔で学校へと向かってみれば。
見事に学校をサボって遊びに行った事がバレていた。
よって、補習。
誰も居なくなった教室に俺と律也だけが残され、恐ろしい量のプリントと戦っている。
まぁ謹慎処分とかにならなくて良かったけどさ。
もしかしたら永奈と美月ちゃんもこんな事になっているんだろうか?
などと不安になり、連絡を取ってみたのだが。
どうやら向こうはこう言ったお咎めは無かったらしい。
むしろ永奈の置かれている状況が明るみになり、彼女に突っかかっていたクラスメイトが盛大にお説教されたんだとか。
こういう問題は叱られれば解決という程簡単なモノではない。
そう分かっているからこそ、今後は教師陣もより目を光らせてくれるそうだ。
今後少しずつ緩和されれば良いなとは思うが、逆に逆恨みされ更に悪化するって事もあるので……良かったのか悪かったのか、微妙なラインではあるのだが。
「なぁ俊介ー」
「んー?」
ボケェっとしながら、二人してプリントを進めていると。
律也の奴が妙に間延びした声を上げて来た。
もはや飽きたのだろう、完全にやる気を失っているのが分かる。
「言い忘れたけどさぁ、俺さー」
「んー」
「美月と付き合ってるわー」
「んー、んん!?」
急だなオイ、情報が急。
いや待って? 君等前回の旅行が初対面じゃなかった?
女子と付き合うとか、そんなに簡単に出来るもの?
俺が知らなかっただけで、実はコイツ滅茶苦茶女慣れしているとかだったのだろうか。
「すげぇな、お前」
「凄くねぇよ、普通普通。高校生なんて言ったら、お試しで付き合ってみよ~くらい全然あんのよ」
「マジか」
「マジだ」
うへぇ、何かこう……俺が思っていた価値観と違うというか。
そういうモノなのかと、思わず感心してしまった。
まぁ確かに、付き合った別れただなんて話はそこら中に転がっている訳だし。
もしかしたら、俺が難しく考えすぎているだけなのかもしれないが。
「ちょっと根掘り葉掘り聞いても良い?」
「まずはコレ終わらせなきゃだろ」
釣れない友人はベシベシとプリントの束を叩いている訳だが。
ならば、とっとと終わらせる作戦に出てしまえば良い。
「お前、上から順当にやってる?」
「おう、半分まで来た」
「俺、下のプリントからやってる。半分まで行った」
「つまり……」
「「写すか」」
と言う事で終わったプリントを相手に渡し、爆速で補習を終わらせに掛かるのであった。
なんて話で終われば、いつも通りサボりっぽい二人で終わるんだが。
「なぁ律也、彼女持ちのお前に一つだけ今聞きたい事がある」
「んだよぉ、今お前の答えを映すのに忙しんだぞ?」
他人の回答を写しながら良く言えるなお前、俺も他人の事言えないけど。
「空港で永奈を見失ったの、やっぱちょっと怒ってるみたいなんだよ。こういう時、どうやって謝れば許してくれると思う? 前よりやっぱ距離感じるんだよね」
相手のテンションに合わせて、のんびり口調で言い放ってみれば。
「は? いやそれはありえねぇだろ。永奈ちゃんだぞ」
そう言われましても、わからんから聞いているのですよ。
※※※
「あ、永奈。先輩達補習終わったってよ」
「結構早かったね? そんなに厳しい感じじゃなかったのかな」
学校帰り、美月と一緒にハンバーガーショップに立ち寄っていた。
普段はこういう所に寄らずに、まっすぐ先輩の家に向かっている所なのだが。
本日は、何でも美月が話しておきたい事があると言う事で。
「こっち来るってさ」
「そう、なの? 私の方には何も連絡ないけど……」
彼女の言葉に此方もスマホを取り出してみるが、やっぱりコレといって通知は無し。
というか美月、律也先輩とこんなに連絡取り合う程仲良くなってたんだ。
凄い、私と違ってコミュニケーション能力が高い。
などと思いつつポテトを摘まんでいると。
「大丈夫だって、鹿島先輩と連絡取ってる訳じゃないから。拗ねない拗ねない」
「別にそう言う訳じゃないけど……普通ってさ、仲良くなったら男女でもそれくらい連絡取り合うもの? 私もお礼とか送っておいた方が良いのかな」
あまりそう言う経験がないので、全然想像出来ないけど。
もしもそうだった場合、連絡先教えてもらったのにとても失礼な事をしてしまっているのだろうか?
先日はありがとうございました、とか。
旅行から帰ってからは、先輩ともあまり連絡を取り合っていない。
なんというか、こう……ちょっと気まずい気がして。
私が勝手に引け目を感じているだけなのだろうが、それでもだ。
「んーまぁ人によるんじゃない? 私達の場合、付き合ってるから結構連絡取ってるってだけだし」
「へぇ、そうなん……んん!?」
普通に聞き流しそうになってしまったが、今物凄い事言われた気がする。
驚きすぎてポテトが変な所入ったし。
ゴホゴホとむせ込んでいれば、美月は笑いながらジュースを差し出して来た。
「驚きすぎだって永奈。一緒に旅行行ったくらいなんだから、割と普通じゃない?」
「いや、でも、その。早くない? だって元々知り合いだった訳でもないんでしょ?」
普通、普通なのだろうか?
だとすると私の考えていた世界と全然違うと言うか。
恋愛って、そんなにお試しみたいな感覚でするものだったっけ。
なんか凄い気軽い雰囲気だけど、私の見ていない所で律也先輩と美月は一気に仲良くなるイベントでもあったとか?
もはや衝撃的過ぎて、何が何やらって感じになってしまったのだが。
本人は相も変わらず軽い調子のまま。
「偉い人は言いました。誰かと付き合うっていうのは、ゴールではないと」
「えぇと?」
何やら格言の様な事を言い始めた美月は、ピッと人差し指を立てながらニッと口元を吊り上げた。
ゴールではない、まぁ確かに。
そう言う意味では、結婚とかがゴールになるのかな?
なんて、そんな事を考えていれば。
「付き合ってみないと、見えてこない相手の一面もあるって事だよ。永奈はちょっと難しく考えすぎ」
「そう、なのかな?」
「そうそう。もっと気楽に考えて、試しに付き合ってみるのもありだよって。だって実際物凄く好きだった人でも、いざ付き合ってみたらイメージと違ったとか言って、すぐ別れるカップルって結構いない?」
「どうなんだろ……私、あんまりそう言う事話す友達居ないから。でもネットとかでは、たまに見るかも。本当かなぁって、いつも思ってたけど」
でも今美月が上げた例で言うのなら、やはりもっとお互いを知ってから付き合ったりするべきだ……とか思ってしまうのだが。
「その逆もまた然りってね。恋人同士になれば、なんて言うの? 友達とはまた違ったラインが生れる訳じゃん? そういうのも含めて相手を知っていくのが、恋愛なのかなって。だから、付き合ってからどんどん相手を好きになるって事もあるんじゃない?」
「美月は……今、そうなの?」
「そだねぇ、まだ付き合い始めたばっかりだけど。律也先輩の良い所、色々と見えて来たかな」
それだけ言って、いたずらっ子の様に笑う友人。
凄いなぁ、皆。
そう言う事にどこか一歩引いてしまう私は、そんな大胆な行動は取れそうにない。
でも確かに、ずっと先の事ばかり考えていたけど。
実際お付き合いしてみても、絶対に上手く行く保証なんてどこにもないんだ。
私の耳の事以外でも何か問題が起きたり、例えお付き合いしたとしても別れてしまう事だってあるかもしれない。
そう言うのだって、“普通の恋愛”というものなんだから。
「例えばさ、友達のままだったら手を繋いだり抱き締めたりって普通しないじゃん? 付き合っていく内にそう言う事も経験して、もっともっとって思えたりするなら、それは友達の時よりずっと好きになったって事なんじゃない?」
なんて、美月が言い放った瞬間。
ピシッと自分でも固まってしまったのが分かった。
そっか、そうだよね。
普通は、そうなんだよね。
「……永奈、どうしたの? 何か、顔真っ赤だけど」
「手を繋いだり、ハグしたり……してました」
「え」
「先輩と、ほぼ毎日。朝とかに」
考えてみればそうだけど、恋人じゃないとやらないよね。
そもそも私の思考回路は、恋愛だの求愛だのという認識をすっ飛ばしていたらしい。
私がしたいから、やってみた。
先輩がして欲しそうだから、どうぞ。みたいな。
うん、普通しないよね。
だって他の人にそんな事したいって思わないし、ここ数日は距離を置こうとしている影響で減って来た……気がするけど。
改めて意識して、更に昔からずっとやって来た習慣みたいな感覚に陥っていた自分が怖い。
どれだけ先輩しか見て来なかったんだろう、私と言うポンコツは。
「アンタ達、何で付き合ってないの?」
「そう言う事言わないで……」
変に意識し始めたら、顔の熱が引かないんだけど……どうしよ。
先輩はこれまで私が抱き着いたりした時、どんな風に思っていたのだろうか。
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