第2話 クマの人形でした

この世界の魂は何者にも宿る。


人、動物、物体・・・川に転がる石にでも。


輪廻転生の世界


良い行いをした魂は高確率で生物へ、そしてまたいつか終わりを迎える。


悪い行いをした魂は高確率で物体へ、そして長い年月その体でいつか来る終わりを・・・ひたすら待つ。



目が・・・見える。視界は動かせない。


子供部屋か?でも誰のだろう。アメリカの映画でみたような子供部屋だ。


体も動かない。 


(あれ、何があったんだっけ・・・)


体も動かせない、瞬きもできない状況にパニックに落ちいる。


(おい!なんなんだ!だれか!)


【はい。】


頭の中に無機質な言葉が入ってくる。


(お、おいだれだ!? ここは!?)


【あなたは転生しました。あなたのいる場所は惑星ソラリス。】


転生?ソラリス?状況が掴めない。


(なんだ動けないんだ!?お前はだれだ!?)


【ワタシは誰でもない者。あなたの魂はその人形に宿されました。】


突然、四角い光が現れて鏡のように反射する。


(え、?・・・人形?)


目の前に映るのは、青い蝶ネクタイをつけた茶色いクマのぬいぐるみだった。


(これが・・・俺だって・・おい!)


【新しい人生お楽しみください】


(おい、おいっ・・・)


それ以降、その声が反応する事はなかった。



部屋の扉が開いて、男の子が入ってくる。


ソラリスと言う惑星みたいだが、自分の記憶の中にある世界の人と違いは感じられなかった。


どうにかして、体を動かそうと試した・・・


試すも何も視界しかない。


意識を体を動かすのに集中してみたが動かせる気配はなかった。


部屋の外から『トニー』と呼ぶ女性の声が聞こえてきた。


この部屋の持ち主はトニーと言う男の子みたいだ。


トニーはたまに、部屋のおもちゃで遊ぶも向かいの棚に並んでいるロボットのおもちゃや、カウボーイ人形で遊んでいる。



俺のことは選んでくれない。


ただ、視界の映像が流れるだけ。


トニーが友達を呼んで遊んでいる。


今日は真面目に勉強している。


今日は泣いている。


いつしか、トニーの成長を見守る事だけが楽しみになっていた。


どれくらいの月日が流れただろう。


毎日トニーを見ているから気づかなかったが、トニーの体格は初めの頃よりはるかに成長していた。



今日は、トニーが女の子を連れてきた。


高校生くらいにはなったのだろうか。


部屋に入るらとすぐにベットに倒れ込んだ。


彼女がトニーにのしかかり、衣服を脱いでいく。負けじとトニーも服を脱いで2人とも生まれた時の姿へ。


トニーは俺が見ていることを気付いているだろうか。いや、そんな事あるわけがない。


2人の行為を最後まで見届けた。 


今度はアルコールのような物を持ってきて2人で飲み始めた。


彼女は酔っ払い、ベットに仰向けになるとこちらを見つめて指を刺した。


トニーが近づいてきて、片手で俺を持ち上げる。


この世界にきてから初めての違う景色に、出るはずのない涙が出そうに感じた。


トニーは俺を彼女に渡して、『あげるよ』と言った。


トニーが俺に触れたのはそれが最初で最後だった。


トニーにとって、俺は何者だったのだろう。


俺がこの体に転生させられた時には、あの定位置だった。


俺が転生する前は、トニーにとって大切な物だったのだろう。


彼女の手に持たれて、初めて外の世界を見る。


外の世界は、俺の記憶にあるアメリカ映画の

一般的な住宅街のそれと違わなかった。



ふらふらと酔っ払っているのか、視界は安定しない。



『キャッ』


彼女がつまずいて、空中に投げ出される。


地面に叩きつけられるもの痛みは感じない。

 


立ち上がった彼女はそのまま行ってしまった。


(うそだ・・・おいていかないでくれ・・)


酔っ払って絡んですっかり記憶から消えたのか、彼女は振り向くこともしなかった。



日が上り、明るくなると老婆が俺を持ち上げる。


(頼む、また放置は嫌だ・・・)


俺を持った老婆はしばらく歩いた。


(公園?)


ホームレスのような人だかりが、焚き火を囲んで集まっている。


(頼む、誰でもいい。俺に話しかけてくれ。

なんでもいい、おもちゃの人形として遊んでくれ・・・)


焚き火の方に近いた老婆は、ヒョイっと焚き火に俺を投げた。



(え?・・・・)



視界が赤い



the end










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