10話 翻弄させて
あっという間に三日が経ち、いよいよ夜会当日となった。
「――アメリア様、とても綺麗です」
「…………どうも」
その日は朝から大忙しだった。
朝起きるなりルイスに捕まったアメリアは、あれよこれよと様々なドレスに着替えさせられた。
「赤いドレスも捨てがたいですが、今の青も美しいですね……」
「貴方は状況わかっているのですか?」
「もちろん! アメリア様は伯爵時代、男装をしておいででしたのでドレスに身を包むことなど殆どありませんでした! ですから、アメリア様を最高に美しく魅せられるドレスを好きに着せ替えられるなんて至福です!」
「いや、そっちじゃないだろ!」
興奮気味のルイスにアメリアは思わず突っ込んだ。
(本当に、条件を忘れてないだろうな……)
そもそもアメリアがルイスに同行するのは、そうしなければこの屋敷を離れることができないからだ。
自分が早くここから離れなければ、セエレが使用人達にどんな嫌がらせをするかもわからずアメリアは戦々恐々としていた。
(第一ランペル家主催の夜会に私が同行なんてしたらセエレ嬢が黙っていないでしょう……)
ルイスはセエレがアメリアを嫌っていることを知っていた。
それだというのに彼は素知らぬふりをして楽しそうにアメリアを着飾り続けている。その態度に、アメリアは少しだけ腹がたった。
「……ルイス様。やはり、本日私が同行するのは辞退させていただきたいのですが」
「ん? この屋敷を離れることを諦めてくださったのですか?」
きょとんとしながらも痛いところを突いてくる。やはりルイスは忘れてなどいなかった。
「違う! 会場にはセエレ様もいらっしゃるのでしょう。女の私が傍にいたら、婚約者のセエレ嬢が嫉妬心を抱いてしまうといっているんです!」
「関係ないでしょう。これは仕事だ」
ルイスの顔から笑みが消える。
「それに……かつての俺だってサーヴェン様がいらっしゃる夜会に同行しておりましたでしょう?」
「それは……そう……だけど……」
「だから何度もいっているじゃないですか。俺は、かつての主を資本として行動しているだけです」
にこりとルイスは口角を上げながら、アメリアの顎をくいと指ですくい上げる。
「なら、いいじゃないですか。俺だって貴女を連れて行ってもいいでしょう? 俺だけ駄目だなんてそれこそ不公平だ」
「でも、貴女には――!」
言葉を遮るように、ルイスはアメリアの口を覆った。
「口を開けば貴女はセエレのことばかり……妬いてしまいますね」
「な、なにをいって!」
鋭い目つきに背筋に悪寒が走る。
「この夜会が終わるまで、貴女は俺だけのものです。余所見はせず、俺だけのことを考えてください。それとも――」
そのままルイスはアメリアの耳元に口を寄せる。
「――セエレにヤキモチですか?」
くすっ、と笑い混じりの吐息が耳にかかりアメリアの顔が真っ赤に染まる。
「――っ! そんなわけないでしょう! バカッ!」
勢いそのままにアメリアはルイスの胸を押しのけて部屋を出ていってしまった。
その後ろ姿をルイスは楽しげに笑いながら見つめる。
ぱたり――扉が閉じた後、その笑みがすうっと消えた。
「貴女は誰にも渡さない。そのために俺は――」
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