第1話β・人生一周目の勇者

「王様!どういうことですか!」


夕焼け色の髪をした青年、『プロキシマ・ディッパー』は、3人の仲間を連れて『スペース城』へ来ていた。

1年ほど前、自分達の旅はここから始まった。



「…ふむ。全てを話す時が来たようじゃのぉ」


宝石を散りばめた王冠に白い髭。絵に描いたような王様は、玉座から立ち上がる。



「お前たちは、この世界の名前を覚えとるか?」


「…ノゥ・スペースですよね。」


王様の問いかけに、夜闇の髪をした少女、『テイレシアス』が答える。


生前、自分達が住んでいた地球とは違う、見るからに異世界のこの場所は、『ノゥ・スペース』。

初めて城を訪れた時に、王様から教わった。


「その通り。ノゥ・スペース。『違う宇宙』であり、『知っている空間』。それが、この世界。」


「…どういうこと?」


朝日のように真っ赤な髪をした女性、『イオ・ジュピター』は、首を傾げる。



「信じれんじゃろうけど、この世界は転生者が集まる場所なんよ。」


「じゃあ、俺達だけじゃなくて、今まで出会ってきた人全員転生者?!」


「その通り」


転生者達は、野生の魔物に奇襲を掛けられた時の10倍は驚いた表情をする。転生してから一番の衝撃だった。



「王様も転生者なんですか?」


「勿論。前世は日本の広島におった。」


「じゃあその老人口調広島弁だったんですか?!」


プロキシマは王様の口調の違和感の真相を知り、ずっこけそうになった。



「でも待ってください。じゃあ、オサカナはどういうことなんですか?」


イオは、真昼の空色の髪をした少年、『オサカナ・フォーマルハウト』を指す。


「…おれ?」


相変わらず何も理解できていないオサカナは、ジトッとした目を開き、王様を見る。



「…まぁあれじゃ。何事にも例外はあるんじゃろ。」


「適当じゃないですか!」


プロキシマは、またもずっこけそうになる。



「多分、神の悪戯じゃろう。うん。絶対そうじゃ」


「…神の悪戯?」


「オサカナ!もうこの広島のじーさんの話を聞くのはやめよう!」


真に受けようとするオサカナを、プロキシマが止める。どこまでも純粋なオサカナを引き止める状況は、旅の途中に何度もあった。



「誰が広島のじーさんじゃ!こちとらスペース城の王様じゃけぇの?」


「いや聞けば聞くほど広島弁だなぁ!?」


「今まで王様=老人口調って決めつけてなんの違和感もなかったけど、僕達の偏見だったね…」


これだから若いもんは…と呟きながら、王様は玉座に腰掛ける。



「…まぁとにかく、転生者でもそうじゃなくても、やることは変わらん。一刻も早く、魔王を倒しに行け。」


「でも、魔王も転生者ってことですよね?なんだか倒しづらいな…」


イオは基本誰にでも優しい。

この世界で悪名高い魔王も、前世は自分たちみたいな一般人だったかもしれない。そう思うと、少し心が痛む。



「魔王って、魔物を従えて街を荒らす悪党だよね。王様同様、魔王とはそういう者として疑問に思ってなかったが…これも偏見で、前世に何かあったのかもしれない。」


テイレシアスは人差し指を曲げ、口元に当てる。これは考え事をしている時の彼女の癖。

肩下まであるストレートヘアに、宇宙を閉じ込めたような瞳。思いにふける姿は、絵に描いたような美少女だった。



「でも俺、魔物に村を壊滅させられたところから第二の人生が始まったからなぁ…」


プロキシマは過去を思い返す。

転生した直後から、すでに赤子ではなく青年だったが、きっと自分はあの村で育ったのだ。そう思うと魔王への嫌悪が強まる。



「…おれは、みんなを守りたい。」


転生者達がそれぞれ考える中、ずっと黙っていたオサカナが口を開く。


「おれには転生がなんなのか、よくわからない。でも、命が大切なことは知っている。そんな命を脅かす存在は、倒しに行かなきゃいけない。」


「オサカナ…」


普段口数の少ない少年が、一生懸命話している。

純粋無垢な瞳。世間知らずだが、正義感の強い性格。これがゲームなら、彼は間違いなく勇者だった。



…そう。勇者。

きっとこの物語の主人公は、オサカナなのだ。

その場にいた転生者達は、揃ってそう思った。

ならば、自分達がやることは一つ。



「…オサカナの言う通りだね。せっかくみんな生まれ変われたのに、魔王のせいで大勢が犠牲になったら、悲しい。」


イオは決意を決める。魔王の前世がなんであれ、懲らしめなければいけない。



「こういう時だけは頼りになるよなお前。…まぁそういうところが、オサカナの良いところだな!」


プロキシマはオサカナの肩に腕を乗せる。

「これはなんだ?」と言わんばかりの表情をするオサカナに、「肩を組むんだよ!」と教える。

オサカナは真顔でプロキシマの肩に腕を乗せる。それはそれは歪な肩組みが出来上がった。



「とにかく魔王に会えば、真の理由もわかるかもしれない。今は王様の言う通り、魔王城を目指そう。」


テイレシアスは鞄をあさり、『流星の砂』を手に取る。これはいわゆる、ワープアイテム。一度行った街へなら、これを使ってワープすることができる。

スペース城へもこの砂を使って来た。



「話がまとまったようじゃのぉ。さぁ、転生者と無垢な少年よ!魔王を倒してきんさい!」


『はい!王様!』


流星の砂の蓋を開けると、辺りに砂が舞う。

後は、行き先を念じるだけ。

現状行ったことある街で、魔王の城に一番近い街。行き先は、『双子都市・ポルクス。』



流星の砂は青く光り輝き、旅人4人を包む。



「王様!さんざん言ったけど俺、広島好きだぜ!」


そんなプロキシマの声を最後に、4人の姿は王様の前から消えた。



「全く騒がしい奴じゃのぉ…料理長!今夜はお好み焼きじゃ。勿論広島の。」


「…国王陛下。お言葉ですが、自分関西人やから、焼きそばの上にペラペラの粉モン乗っかっとるとかありえへんわ。」


「いやワシは王様じゃけぇのぉ?!」



…転生者ばかりの世界も、案外楽しそうである。

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