おれ以外みんな転生者

解O

第1話α・初めての終わり

老衰、病死、事故死、他殺、自殺。

生きている者は皆、いずれ死を迎える。


ある者は、病室のベッドの上で。

ある者は、交通量の多い道路で。

ある者は、ナイフに刺されて。

ある者は、地面に打ち付けられて。


己の状況を理解できているのか、否か。

しかしいずれも、まるでこれから舞台でも始まるかのように、世界は暗転する。


視界が効かないので、耳を澄ませる。開演のブザーは鳴らなかった。


暗黒と静寂の空間で暫くして。

生まれてから途絶えることなく聴こえていた、心臓の音すら鳴っていないことに気がついた。


不思議と恐怖よりも、「ああ、やっぱりか」という感情の方が強かった。


そして観客たちは皆、口を揃えてこう言った。


『もし、転生したら…』



______


目が覚めると森の中。あるいは、知らない洋館の中かもしれない。


手のひらの感覚を確かめて、息を大きく吸う。

足元を見ると、見慣れない装飾の靴が見えた。

近くの水辺か、あるいは豪華に縁取られたロココ調の鏡か。映し出された己の姿を見て、彼ら、彼女らは確信する。


___これは、異世界転生だ!


ついに、自分が主人公の物語が始まったのだ。

そう、誰しもが思った。


剣と魔法のRPGのような世界にワクワクしながら、ギルドに所属し、パーティを組む。


王様から武器を授かり、魔王の城を目指して旅をする。喜怒哀楽を共にしているうちに、かけがえのない友情が芽生えた。


魔王城へはあと少し。おそらくこれが、最後の夜。

…そして、満を持して告白する時が来た。


「俺、実は人生二週目なんだ。」


「私、前世があるの。」


「僕、転生者なんだ。」


「…?」



…何かがおかしい。


「お前らも転生者なのか?!」


夕焼けのようなオレンジの髪をした青年は、驚いた顔をして問いかける。


朝日のような真っ赤な髪の女性は、目を大きく開き、夜闇のように深い藍色の髪の少女は、口をぽかんと開けていた。

声も出ないほど驚いた二人は、顔を合わせた後、ゆっくりと頷いた。


「…はは!!運命だな!」


「そうだね!びっくりしたけど。」


「これまで隠してきた意味なかったね…」



まぁ、これはこれで面白い。そう思った。

共に旅をしてきた仲間達が、自分と同じ境遇だった。おかしな話だが、運命すら感じた。


…しかしそんな和やかな空気は、たった一人の言葉で一変する。



「…前世?転生?みんな、何を言っているんだ?」



雲一つ無い真昼の空のような髪をした少年は、不思議そうに仲間達を見つめた。


空気が凍りつく。

この瞬間、空色の少年の仲間達は理解した。

彼は…『オサカナ・フォーマルハウト』は、このパーティ唯一の人生一周目だ。

彼の純粋無垢な瞳が、その証拠だ。


オサカナは、ただでさえマイペースで危なかっかしい、パーティ最年少。

しかし今思えば、前世がある自分達が大人びていただけで、彼は年相応だったのだ。


…そして、転生者達は心に決めた。


『この子は俺が(私が)(僕が)守る!!!』


「…おれ以外みんな"てんせいしゃ"?」



オサカナだけは、この状況が理解できていない。


転生し、旅を始めてから1年ほどか。

見慣れない星座の下、仲間達と焚火を囲みながら。

舞台は、やっと開演した。

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