第14話
騒がしさ落ち着かないまま、その日は解散となった。
久末先輩が突然倒れたのだから当然だろう。
夜慧や葵に小梅。誰も、なにも話すことなく分かれ道まで来た。
「それじゃ」
「うん」
短い言葉を夜慧と交わして家へと歩き出す。
「ねえ」と小梅の言葉に足を止める。
「今からうちに来れる?」
「いいけど」
近所、というわけではないがそう遠くはない。
小梅の家に着くなり慌ただしく小梅が家に入ったかと思うと、片手に何か持って出てきた。
「もしよかったら見て。気分転換になるかもしれないから」
小梅が手渡してきたのは、いつか予約していたアニメ。
ありがと。と鞄に入れその場を後にした。
家に帰り、夕飯と風呂をすませ、髪を乾かせながらぼうっとする。
久末先輩は元々持病やらなんやらで体は強くなかったらしいが、あまりに突然だ。
布団に身を投げる。なにも手につかない。
そうだ――。
せっかく小梅に借りたのだから、と埃をかぶっていたプレイヤーを起動させる。
パッケージを見る限りこれで再生ができるはず。
アニメなんていつぶりだろう。そもそも趣味と言えるようなサブカルチャーを私は持ち合わせていない。
今回みたいに『この漫画面白いよ!』『この番組がさ』と言われて見るものが大半だ。
軽く世界観の説明が入り、初回故かオープニングに入らずそのまま物語がはじまる。
『これは俺がけじめをつけるための旅なんだ』
序盤の村で助けた村娘――たぶんヒロイン――に『一緒に旅をしたい』と、詰め寄られらた中盤に主人公はそう答え動向を拒んだ。
そこから滞在している村に怪物と謎の集団が現れ、無双していた主人公も手が回らず村が破壊されてゆく。
『やはり俺はなにも――』
やるせない、という感じの主人公はありったけの力を持って、村ごと消し去ろうとする。
だけど、序盤に助けた村の戦士や、果敢に立ち向かうヒロインに焚きつけられた村人の姿を見て、主人公は再起し怪物たちを退ける。
『あなたがつけたい、けじめがなんなのかわからない。だけど一人で背負わないで』
ヒロインがそう言い、ついてゆくと決心をし『勝手にしろ』と言う主人公の語りで一話が終わった。
けじめとかやりきれなかったことを主題としつつ、暗くなり過ぎないように作られたように感じ小梅が推すのも納得できた。
「けじめ、やりきれなかったこと。カタリーナ、あなたにもあるよね」
そう一人ごちり、数秒してハッと端末を手に取り検索をかける。
「魔女裁判」
そうだ、あの記憶は――。
昨日の今日、ということで朝練は中止に。それは私にとっては好都合だった。
上履きに履き替えると急いで三年生の教室へと向かう。
「卯ノ花先輩はいますか?」と聞くと、クラスの人が卯ノ花先輩を呼んでくれた。
教室から少し離れた場所へと移動する。
「どうかしたの?」
「急にすみません。その『前世の記憶』についてわかった、というか、誰の、いつの記憶かわかったんです」
「本当に?それで、体調が悪くなってきた、とか?」
私は頭を振った。
「そういうのは全然ないんですけど。あの、この前相談したとき『手がある』て言ってましたよね?」
「その『手』を借りたい、と」
うなずき返す。
ホームルーム開始のチャイムが鳴り響く。
「とりあえず放課後、部活後でいいかしら?」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言い教室へと駆け足で戻る。
まだか、まだかと待った放課後になるや否や、教室を飛び出して体育館へと急ぐ。
いつもなら戍亥先輩たちが先に来て、なにかしらしてるはずだが今日はいなかった。
まだ誰も来ていないのなら少しは体を動かせるだろうと、更衣室に向かう。
「よ、早いな」
「夜慧の方が早いじゃん」
更衣室には着替え終わった夜慧がいた。
「ちょうどよかった。和、あのノート持ってるよな?」
「うん、あるけど。変化球の練習?」
「大会に向けて、な」
私は更衣室にあるカレンダーを見た。久末先輩の字で『大会』と可愛らしく書いてある。
「――最悪の形で十二人になっちまったけどさ、やることは変わらないと思うんだ。一年生の誰かが補欠になる、私はそれが嫌だから練習をする、それだけ」
「そう、だね。言っておくけど負ける気ないから」
言ってら。と夜慧が更衣室を出る。
私も手早く着替えをすまし「よし」と気持ちを入れ直す。
記憶は後、今やるべきことを――。
軽く準備体操し、キャッチボールをはじめる。
夜慧の球は知らない間に鋭く伸びるようになっていた。
「変化球いらないんじゃない?」
「そう?んじゃ球速の伸ばし方天辰先輩に聞こうかな」
キャッチボールをしていると「ずるい!」という小梅の声が響く。
「和も夜慧も早いね。ね、ね、私も自主練に雑ざっていい?」
「もちろん」と葵と小梅も雑じる。
五分ほどして、ドタドタと聞き知る足音が。
「遅れたー!」
れたー!と言う戍亥先輩たちに続いて、二年生の先輩方が体育館に入ってくる。
どうやら先輩方は進路のことについての集会があったらしく、二年生と入れ替わりで三年生の先輩方なので、もう少し遅くなるらしい。
「はぁ、はぁ。本当に馬鹿だろこいつら」
「それについていく日乃江もね。と、和たち自主練してるの?」
はい。と答え背を伸ばす。
『あの』とまさかの私たち四人の声がハモる。
代表で行け、と夜慧が肘で押してきた。
「あの、投球フォームを見て欲しいんですけど」
寅谷先輩と巳之口先輩が顔を見合わせる。
「ああ――」
「いいよー!」
「うっせえな。わざわざ隣に来て、でかい声出すな!」
寅谷先輩と汀先輩のやりとりを見て、酉水先輩がくすりと笑った。
「それじゃ速球組と変化球組でわかれようか。でも、その前に準備運動だねぇ」
しっかりと準備運動をし、寅谷先輩と戍亥先輩方の速球組と、巳之口先輩と酉水先輩の変化球組にわかれて練習を開始する。
「それで、和はどの変化球をメインにしたいんだい?」
「あの――アップを」
「アップかぁ。久末先輩ならアドバイスだせるだろうけど。うん、とりあえず投げてみようか」
構え、私なりに考えた投げ方で巳之口先輩へと投げ込む。
球速が遅いのは、まあ予想の範囲内だった。けど、球があらぬ方向に飛んでいくのは予想外のことだった。
「すみません」
「ううん、なんでもやってみなきゃわからないから。ただ、ごめんやっぱりアドバイスできそうにないや。とりあえずカーブなら教えられるけど」
「それでお願いします」
別にアップに固執したいわけじゃなかったし、今は一つでもなにか、得意なことを増やしておきたかった。
ちらりと隣で投げ込んでいる夜慧と葵をみる。まっすぐ投げ込んだ球が早いのは元より、正確さでも私より上。
ふぅ。と深呼吸し逸る気持ちを溶かし、ただ前を見る。
「休憩!」と寅谷先輩が声を張る。
タオルを取りに更衣室に戻ろうとしたとき、三年生の先輩方が体育館に入ってくる。
誰の指示があったわけでもなく、私たちは自然と天辰先輩の元へ集まった。
「ほら、集まってきましたよ。どうするんですか副部長」
午居先輩の言葉に天辰先輩が言葉を詰まらせる。
「しゃんとしなさいよ。らしくない」と卯ノ花先輩が背を押す。
軽く目をつむり、開いた天辰先輩の白銀の瞳には、先ほどの曇りがなく怒り、とは違うなにか燃えるようなものがあった。
「昨日、懇が倒れた。そのことがあって、顧問の先生から大会についてどうするか聞かれて私は『でます』と二つ返事で答えた。以上が報告になる。それで、これは個人的なことなんだが今度の試合勝ちたい。一勝じゃなくて、優勝したことを懇に、来れるならみせたい、無理なら聞かせたい。だから、どうかよろしく頼む」
天辰先輩が頭を下げた。
「元より二年はそのつもりです。桃香が開催高校を視察とかして調べた結果、あたしたちを出しに使おうとしてるみたいで、癪なんで。それにこういうのはなんですが、みんな同じ気持ちだと思います。だからどうか気負わないで下さい」
寅谷先輩がそういうとみんなが小さくうなずいた。
「――だ、そうよ。だから言ったでしょ、考えすぎ抱えすぎだって」
「ま、部活の方向性を『小学生の仲良しこよし』から『年齢相応の競技レベル』に上げなければいけないので、声に出したのは結果的によかったんじゃないですかね?」
天辰先輩とかんな先輩がお互いの顔をみた。
「――そうだな『仲良く』と『なあなあ』は別物だ。よし、練習を再開しよう。日乃江、練習はなにやっていた?」
その日はじめて午後錬でへろへろになるまで練習をした。
部活終了後、私は用がある。と夜慧たちと別れ、卯ノ花先輩が待ってると言っていた鶏小屋に急いだ。
「お、来ましたね」
そこには卯ノ花先輩の他に午居先輩もいた。
とりあえず裏門から学校の外に出る。
「さて、そろそろ話してもらいましょうかね」
「そうね。実は雨夜が『前世の記憶持ち』かもしれないの。それでこの間になって、断片的だった記憶が鮮明になったらしいの」
「『前世の記憶』について聞き返すと長くなりそうなので、額面通りに受け取っておくとしましょう。ただ、わかりませんね、なぜに私にも相談を?」
卯ノ花先輩が足を止めて午居先輩を見た。
「かんなのところに祭られている神様に、道の神様がいたでしょ?」
「猿田彦命様ですね。そこまで調べるなりしたなら名前ぐらい覚えて下さい」
それで。と午居先輩は片足に重心をあずけた。
「あなたは和の悩みを神頼みで解決しようって言うんですか?」
「あながち間違いじゃないわ。でも、私がして欲しいのは雨夜に神がかりを起こして欲しいの」
ほう。と午居先輩が唸る。
「あの、神がかりって?」
「神様を人間の体に降ろして神託を聞いたりすることですよ。ただ、あなたはこういうの『非科学的』だとか言ってませんでした?」
「そうね。ただ『前世の記憶』事体も認められてない、非科学的なことなの。で、私が雨夜に神がかりを起こして欲しい理由なんだけど、トランス状態に持っていくことで表層意識と深層意識に分離させ、雨夜の意識を強く覚醒させて『前世の記憶』を薄める、それが目的で理由」
正直話についていけない。だが、午居先輩は飲み込めたのか口を開く。
「なるほど、確かに催眠術だとか薬だとかに頼るよりは比較的安全。わかりました、どうなるかわかりませんがやってみましょうか。なかなか面白そうですし。ただ、準備がありますし明日は懇の見舞いに行く予定なので明後日でいいでしょうか?」
「はい」と私は返事を返した。
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