第38話 なんなら〈亡霊〉〈執着〉〈怨念〉の三つ巴? 三枚看板? でやっていってもいいとすら思ってるわけでね(調子ぶっこ期)
「ああ、聞いてる。怪盗〈
「そうだ。お前のような盗んで逃げるスピードタイプとは似ても似つかない、力尽くで破壊の限りを尽くして盗みは申し訳程度という、強引極まりないやり方だと聞く。
俺も実際に見たことはないが、ローブの下は全身包帯でぐるぐる巻きという、見た目もまたお前たちとは似て非なるものだとか。
一部では〈
「ずいぶん詳しいな」
「これは全部〈巫女〉から聞いた」
「お前と〈巫女〉って実は仲良しなの?」
「殺し合う仲を良好と呼ぶならそうなる」
あまり深くは訊かない方が良さそうだ。それより肝心の〈
「まっ……別に勝手に名乗られる分には、俺は特にうるさいことは言わねぇよ? たとえば俺が老いて没したり、衰えて引退した暁には、誰か若い奴にその名を受け継いで欲しいとすら思ってるくらいでね?」
余裕綽々で言ってのけるヒョードに対して、なぜか訝しげな表情になる〈
「……〈
「あー、彼が言うにはねー、偽者が現れるのはある種のステータスなんだってー」
「……どういうことだ?」
「怪盗〈
「ああ……それほど巷間に〈亡霊〉の名が浸透しているのが嬉しいということか」
シラーッとした眼で見てくる〈
「まぁ待てよ。俺だって対応を考えてないわけじゃないんだぜ?」
「……というと?」
「〈
「……念のため最後まで聞こうか」
「一方で〈怨念〉がその名に反し、
「お前が言っているのは演出の話だろう。具体的に〈怨念〉をどう捕捉するかのプランは?」
「わっかんね。だってまだそいつの能力を知らねぇし」
「……そうか」
ものすごくなにか言いたいことがありそうな〈
「ごめんねー。うちの〈
「早くも頼む相手を間違えたかと思えるところだぞ……〈
「ひでぇ言われようだなおい」
ヒョードの苦情をスルーする〈
「あのー、わたしたち姉妹と〈
無感情な顔で黙って噛み砕いた〈
「つまり……愛ゆえか」
「あ、愛ってとこまではいかないけどー!」
「友愛や親愛もまた愛だろう」
「うわー、ベタな罠に掛けられたー!〈亡霊〉ちゃん、〈執着〉ちゃんてば食わせ者だよ!」
「お前が勝手に引っ掛かったように見えたが」
一人でキャーキャー騒ぐレフレーズに、思うところあってか冷たく吐き捨てる〈執着〉。
「愛など下らん。儚く消える風前の灯だ」
「あんなこと言ってますよ先住猫さん?」
「ぶー! おやつあげないよー!」
「罰が甘い……」
「……まあいい。精々俺の諦念を反証してみてくれ」
妖精族が気難しいのは百も承知だが、どうも少しばかり気分を害したようで、背中を見せて仮面を外し、戸棚に置いて立ち去る〈
扉を開けて出かけたところで、振り返らずに立ち止まり、一つだけ言い置いていく。
「そうだ。報酬のことだが」
「要らねぇよ。ロマンがあればそれでいい」
「まあ聞け。互いに成功報酬にするというのはどうだ?」
「……互いにってのは?」
「俺が『火の衣』を入手できた場合のみ、俺はお前たちに大金を支払う。一方その大金だが、これも俺の大願が成就した場合のみ手に入る」
「……〈輝く夜の巫女〉の財産ってことか」
「そのときは現場に取りに来てもらう形になるかもしれんな」
「呆れてものも言えないぜ、その豪胆さには」
「誉め言葉と受け取っておく。また連絡する」
「ああ」
〈
「まぁそう毛を逆立ててやるな。さっきの話を聞いてただろ。あいつはどうも愛する者を……おそらくは初恋の相手を亡くしている。それも三つのときにだ。世界に絶望したって仕方ないだろう。多少の失言は流してやってくれ」
「もー、しょうがないなー。知り合ったばかりなのに、ヒョーちゃんってばずいぶんあの人の肩を持つよねー」
「どうも
「一緒にわたしのミルク飲む?」
「それだとお前だけ渇くばかりだろ。ナゴさんとこ行ってなんか飲ませてもらおう」
〈紫紺の霧〉の料金プランにはドリンクメニューも含まれている。服を着直して階段を降りながら、ヒョードは眉根を寄せて言った。
「しかし実際、そろそろ〈
「わたしはねー、なんとなくだけど、〈怨念〉ちゃんは悪い子じゃないと思うんだー。だからどこかの現場で鉢合わせしても、あんまりキツめのお仕置きはしないであげてねー」
「猫さん優しっ」
店主のナゴン・バルザッシュのいる店のカウンターのところへ行くと、ちょうど店内は客が
ボーッと店番をしているナゴンにドリンクを注文すると、手と同時に口を動かしてくれる。
「そういやさっきまでそこに来ていた、教会のお偉いさんが言ってたんだけどさ」
ナゴンとガルサの姉弟は母方の血ゆえ、他者の心の声とやらを聞くことができる。
これは耳をそば立てなくても勝手に聞こえるもので、この店では考えたことが店主と用心棒に筒抜けである。
ただしなんでもかんでも口外するというわけではない。そういう噂が立つと困るし、本当にヤバいレベルの情報は聞かなかったことにして全力で忘れるのだそう。
どちらかというといずれは巷に流れるような話を、新聞以上の速報として知れるという使い方をしているらしい。
「怪盗〈
「それは……本物と同じような?」
「いや、認識阻害なんかの機能はついてない、普通のファントムマスクのようだよ。ただし、〈
「意外な人物の可能性ありってことか」
「意外な悪党の可能性ありってことでもある」
ふとヒョードとナゴンが、さっきから黙っているレフレーズを見ると……彼女はワナワナと怒りで震えていた。
「ねーヒョーちゃん。もし次の現場で〈怨念〉一味に会ったら、キツいお仕置きを食らわせてあげようね? もし良い子でも関係ない!」
「お前さっき言ったことと逆だぞ!?」
「ぶー! ダメでーす! そこ真似するのは許しませーん!
「急にキャラ変わるな……それがもしそういう建前で動いてる教会の特殊部隊だとしても?」
「ぶん殴る!」
「大泥棒ドロテホの実の娘だとしても?」
「引っ掻く!」
「お前らの昔の友達とかでも?」
「噛みつく!」
「〈
「迷わず猫キーックだよー!」
「わかったわかった。とりあえずボコす。でその後処遇を考えような」
荒ぶる猫さんを宥めながら、ヒョードの頭に二つの懸念が浮かんでいた。
一つは、相手が簡単にお仕置きなどできないほど強い場合。
もう一つは相手の目的が、本気で〈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます