※タイトルを変更して『悪魔憑依で下剋上〜最弱だった俺がなんやかんやですべてが上手いこといくまで〜』をお送りいたします
第32話 貧乏暇なし、甲斐もなし
「やっべ、忘れるとこだった」
慌ててガルサとともに来た道を引き返すヒョードは、打ち捨てられた『宝の枝』が、残っていたことに安心した。金目のものと目されて、誰かに拾われていたら困っていたところだ。
「値打ちはともかく、こんな危ないもん街中に放っておいて、市民の皆様にご迷惑をお掛けしちまったらコトだからな」
「大将はそういうとこ真面目だよな。で、どうする? こいつはさすがにウチに置いとくわけにいかねえからなあ……」
前回の『神の器』(条件不達成により失敗)は、早い話が単なる激重鉄器なため、〈紫紺の霧〉の片隅に、いかにも由緒ある品でございという雰囲気で置かせてもらっている。
しかし今回の『宝の枝』はそうはいかない。居るだけで体調を崩すと、店の評判がガタ落ちすること請け合いである。
「燃えるゴミってわけにもいかねぇからな」
「神域の炎でなら燃えるゴミなんだがなあ」
「それもう普通に燃えないゴミなんだよな」
「根だけ切ってどうにか処分できりゃ、茎と実だけならウチに置いてもいいぜ」
「いや……なんかアレだろ、失敗作がどんどん並んでいくみてぇで縁起悪ぃわ」
「これでいちおう植物だから世話しなきゃならねえしな。俺は正直要らねえや」
「俺も要らねぇよ。愛着が湧くかと思ったが、別にそうでもねぇな。動物なら話は別なんだけどな……あ、悪い、先行ってくれ」
ヒョードが屈んで靴紐を結んでいるわずかな間に、少し向こうでガルサが誰かと話していることには気づいていた。
ヒョードが立ち上がるとガルサが戻ってきたのだが、なぜか真っ青な顔をしている。
「……大将……」
「どうかしたのか?」
「悪い……今、そこで妙なオッサンに話しかけられてよ。譲ってほしいって言われたもんで、勝手に『宝の枝』を手放しちまった」
「そりゃ良かったじゃねぇか。きっとその手の好事家だぜ。なにが問題なんだ?」
「これ見てくれよ、大将。言い値で買うっつうからよ、冗談で適当吹っ掛けたんだ。そしたら真に受けたのか、こいつを渡された」
それはプレヘレデ国内の大都市にある、クソ長い名前の銀行が発行している小切手である。
署名は、ジョルジョ・パニーノ? なる人物。額面は……数え間違いか……?
「一億、ペリシ……!? うっそだろ!? 材料費だと五万とかそんなもんだぞ!?」
「た、大将、時間が時間だ、声抑えてくれ」
住宅街というわけではないのは幸いだった。慌てて自分の口を押さえるヒョードに、やたら周囲をキョロキョロしつつも、耳打ちしてくるガルサ。
「俺もしかしてめちゃくちゃやべえ筋の親爺と関わっちまったのかもしれねえ……」
「いや、でも合意の上で貰ったもんだろ? 脅し取ったわけでも、騙し取ったわけでもなし……すげぇよ……俺だってこんな金額、見聞きすることこそあれど、手元に残ることなんか一度もなかったぞ」
「そりゃ結構かもしれねえけどよ、問題が一つあるぜ、大将」
「なんだ?」
「俺らって、浮浪児上がりの路地裏チンピラなわけじゃん」
「そうだな」
「こんなもん銀行持ってったって、絶対盗んだと思われて、取り合ってもらえないぜ?」
「あっ……」
「誰か社会的地位のある知り合いに心当たりはねえか?」
「……カネモッテーラとか」
「あの御仁、ずいぶん財産を売却したって聞いたぜ。今頃こんなクソ怪しい巨額の証券が出てきましたって言わせるか?」
「……〈輝く夜の巫女〉!」
「大将さっきあいつにめちゃくちゃ景気の良い啖呵切ってたよな!? ここから『あのォ〜……小切手を換金したいんですけどォ〜』ってごますりに行く大将なんか見たくねえぞ俺!?」
結局この件は一旦保留となった。バカデカい死に金というのは持っているだけでなんとなくストレスが発生する。そしてヒョードは気になっていることがもう一つある。
「それで、そいつはどんな風体だった?」
「ああ、モジャモジャ頭でルンペン帽を被ったオッサンだった。ちょっと一瞬目を離した隙にパッと消えちまったんだ。もしかしたら、俺は幻でも見ていたのかもしれねえ……」
ヒョーイ・サレータは売れない画家だ。なんとしてでも売れたいのだが、あいにく
そんな彼がある日、
一番奥に陣取っている、ユージン・ムカシッカーラのスペースが、なにやら騒がしいので、こっそり覗いてみたのだが、驚きの光景に遭遇した。
彼が聞いたのはこれ。
「形象は玉貝、属性は鉄!
第四十一の悪魔バルゼス、我に憑依せよ!」
で、ムカシッカーラの行動も一部始終を見ていたのだが、どうも血を捧げて悪魔を召喚し、自らに憑依させるという儀式魔術であったようなのだ。
藁にも縋る、悪魔にも魂を売るという心情である。後のことはなにも考えていない。漠然とした一発逆転を夢見る彼は、それでも何週間か踏ん切りがつかず、それすらグズグズしていたのだが、ある夜とうとう実行に踏み切る。
結果は成功。得体の知れない暗黒物質が立ち昇り、ヒョーイの心臓あたりに飛び込んできたかと思うと、即座に意識を失った彼は、一面を鉄に覆われた謎の空間に立っている。
が、次の瞬間、巨大な巻き貝が降ってきて、頭を叩き潰された。
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