※さらにタイトルを変更して『転生したら魔族だった〜悪魔の世界では落ちこぼれ扱いされていた俺が異世界では無双するんだが?〜』をお送りいたします

第33話 中身がカスなら入ってねぇのと同じなんだわ

 成功した、というのがバルゼスがまず思ったことだった。


 悪魔を依代に閉じ込める方法というのがあると言われている。悪魔憑依の最中に悪魔との肉体の主導権争いが行われている依代の精神世界の中で、依代の精神体を殺害すると、憑依中の悪魔は、その依代の精神世界から脱出できなくなるという表現がされる。

 だが、これは裏を返せば、悪魔であること、悪魔の世界に生きることを放棄したい悪魔にとっては、依代の肉体を完全に乗っ取り、その依代への実質的な転生を果たすと言い換えることができるのだ。


「やった! やったぞ! ようやくあのクソな魔界から脱出できた!」


 名前も知らない一般通過魔族の声帯を震わせて、バルゼスは夜の街で咆哮する。


 そもそもバルゼスは望んで悪魔に転生したわけではなかった。なぜかウネウネ動くクソ硬いだけの巻き貝という屈辱的な姿の悪魔として生まれ変わらされたのだ。

 しかもすこぶる弱い。ついこの間もムカシッカーラとかいう普通のおっさんに精神世界の主導権争いでボロクソに負け、泣く泣く力だけ貸して戦いの助力をする羽目になった。絶対に転生時に色々決めた神的な存在が悪いそうに違いない。悪魔の強さは前世から続く性根由来の精神の力だという説があるがそれはバルゼスの都合で採用しない。バルゼスは絶対に精神力は強いと自負している。数値化したら計器を振り切るレベルでめちゃくちゃ心の力が強いことを確信している。根拠はないが世界の主人公であるバルゼスが最強に決まっているのだから。


 転生先はなんの特徴もない、種族もよくわからない明らかに雑魚魔族だったが、逆にいい。バルゼスの望みは目立たずスローライフを送りつつたまに良い感じで上流階級から一目置かれながらもさりげなくハーレムを作って好き勝手生きていくことなのだから。


 なにか重要なことを忘れている気がするが、そこはなんか良い塩梅で忖度されてアレされるはずだ。もっともこの世界の神が無能でなければの話だが。しかし期待は……。


「はい、ドーン!」


 脳天にいきなりの衝撃。

 なにが起きたのかまったくわからない。


 ただ新生バルゼスが死ぬ前に見たのは、汚いモジャモジャ頭に、ルンペン帽のおっさんだった。


「おっ、悪ぃ〜。ちょうどいいとこに空っぽの器があったもんだから、つい植木鉢にしちまったわ」


 反論する暇すらなく、バルゼスの意識は呆気なく闇に消えた。

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