第32話 愚かなる裏切り者
K主任がソースを出せと言ってくる。
客先がソースを目で確認したいと言って来たらしい。
いやいやいやいや。駄目でしょう。
このソースには自社開発した描画システムのすべてが詰まっている。
そして相手はあのミドルウェアを見て分かるように描画システムに関心を示している。
ソースなんか渡したらたちまちにしてコピーされる。
この点を指摘すると、K主任は答えた。
「契約でそれはできないから大丈夫」
馬鹿もついにここまで至れりだ。
契約も何も、コピー品を手にもってこれは自社開発ですと言えばそれを否定することはできない。契約など何の効力を持たないのだ。
向こうとしてはパクったソースを社外秘とすることもできる。そうなればいくら怪しくてもこちらは手が出せない。
それを思いつかないのかこのK主任は。
その後、毎日のようにソースを要求するK主任。頑なに断る私。同じ問答が何度も繰り返される。この人には一日経つと前日の議論を忘れるという特性がある。
ただのバイトの私がどうしてこの会社を守る盾になっているのやら。
思い余って別のチームのH主任に相談をして、M社長の所にまでこの議題を上げて貰った。
たちまちにして肝心な描画システムの部分だけはライブラリ化しろと社長命令が出た。当然の処置である。
ライブラリ化するとソースにはコンパイルという操作が加わり、ただの数字の羅列へと変じる。これを解析することは可能だが、ソースを読むのに比べれば難易度が千倍ぐらいに跳ね上がる。
ライブラリ化は誰がやる?
私だ。
結局仕事が増えて苦しむのは私なのだ。
ライブラリ化のついでに、この会社の名前を反転させた配列コードを埋め込んでおく。ライブラリを覗いでもそれは普通の配列にしか見えない。だがライブラリをコピーしてこれは自社開発ですとやっても、この配列は検索で簡単に見つかる。自社開発ソフトに他社の社名を入れることはまともならしないので、これなら言い訳はできない。
これは誰も知らない私だけの工夫だ。
苦労して作り上げた描画システムを見も知らぬ会社に奪われてたまるものか。
暇話開始
私が書いたソースは誰にでも読める。あまりに読みやすいので誰もが私の書いたソースを読みたがる。そして読んだ後でここ間違っているよと指摘してくる。
誰もデバッグなど頼んでいないのに。リリースバージョンまで行っていないソースを覗かれるのが私は何より嫌いだ。それなのに誰もが覗きに来る。
バナナの皮は誰でも剥きたがる。
(マーフィの法則。簡単な仕事は誰もがやって手柄にしたがるの意味)
暇話終了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます