第31話 いつも苦しむのは私だけ

「記述規約を作るから」

 K主任がそう宣言した。

 この場合の記述規約とはデザイン会社にこのシステムで使える機能を伝えることだ。今回はエフェクト系のほとんどは全滅していることを明示しなくてはならない。

 それを無視してデザイン会社が先行すると悲惨なことになる。作り上げた無数の動画が全部ボツになってしまうのだ。

 しかしここで大事なことを見落としていた。

 K主任が関わっているのだ。うまく行くわけがない。

 結果としてデザイン会社に記述規約が中途半端な形で渡ったのだと思う。

 エフェクトのほとんどを封じられたデザイン会社は苦肉の策として、親子呼び出しという機能を中心に動画を組んだ。

 この機能、ウチの描画システムでは未対応だったのだ。


 溢れるばかりの動画の山を作り直すのは無理だ。そこで出た命令が『その機能を追加しろ』である。

 どこの部門の誰がミスをしようが、その後始末は必ず私の所に来る。今までの人生で実証されたことがまたもや起きた。


 この機能には苦労した。元となる動画ソフトの内部でどのような処理が行われているのかが皆目分からないのだ。

 こちらはその動画ソフトそのものを知らない。どんな絵を作りたかったのかも分からない。

 どんな操作をしどのような結果を期待しているのか?

 これを訪ねてもK主任は困った顔をするばかり。この人の頭ではこちらが何を要求しているのかが理解できないのだ。

「動画ソフトのメーカーに聞いたのだけど動作については教えてくれないのだよね~」と例のセリフを鬼の首を取ったと言わんばかりに繰り返すばかり。

 それを唱えている限り自分の責任は果たしたと考えている。

 まさにこの人は給料泥棒である。いや、この人がいなければもっとマシな人がこの場にいるだろうから泥棒よりもまだ悪い。


 短期雇われで入っていたただ一人元気がある小太り君がテストケースを自主的に組んでくれた。

「これを実行してこうなれば正解です」

 涙が出るほどありがたい。この人物だけは才気がある。

 その後、死ぬほど苦労して、やっと正解に辿りついた。


 もうやだ、こんな仕事。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る