第30話 愚か者たちの饗宴
この頃からパチンコ遊技機関連の仕事が明らかに減って来た。
聞いた所によるとパチンコ人口の減少に従いパチンコメーカーの淘汰が進み、一社統合の状態になりつつあるとのこと。
つまりはパチンコで破滅するバカは破滅し尽くしたということだ。
こちらとしては仕事激減である。
新しいパチンコの仕事には奇妙な注文がついていた。
客先の協力会社であるサードパーティのミドルウェアを使えと言う注文だ。
どんなミドルウェアか覗いてみたが、ただのラッパー関数の集合体だった。
遊技機のハードには物凄く贅沢な画像処理チップが載っている。高速かつ大容量。バスの大きさだけで256ビットもある化け物チップである。(一般のCPUで64ビットまで)
この化け物チップには画像処理用の機能が最初から組み込んである。動画再生、画像転写、画像領域転写、変形、回転その他もろもろ。そしてシステムとしてはこれらの機能の呼び出し関数が提供されている。
ハードそのものは一般のパソコン4台分の基板面積がある。
くだんのミドルウェアは上位のソフトから機能呼び出しを受けて、それをそのままこの元からある機能へと受け渡すようになっていた。つまりは『下請け丸投げ』の役をしている。これをラッパー関数と呼ぶ。
たが一つ大きな問題があった。
画像領域転写への繋ぎを行うラッパー関数がないのだ。これは致命的であった。
「ベルゼルクと同程度のエフェクトを要求します」
デザイン会社からそう要望が来た。
即時に返事をする。
「できません」
ベルゼルクで使ったブラー。波型ゆらし、同期ハズレエフェクトはいずれも画像領域転写機能を使う。
だからこのミドルウェアを使う以上は不可能なのだ。
「この関数を増設して貰えませんか?」そう訊ねてみた。
ラッパー関数の追加は難しくない。五分ほどで完了する。
答えは・・ノー。
ええ?と思った。
話を聞くとミドルウェアを作った技術者がもういないということだ。
いやいやいやいや、そちら代わりの技術者いないの? これ、新人でもできる仕事だよ?
「では、こちらで追加してよいですか?」
これも簡単だ。五分で済む。
答えは・・ノー。
ミドルウェアを改造してはいけない。ミドルウェアだけを使わなくてはならない。
ここまで来るともう客が何を望んでいるのか分からない。
明らかに常軌を逸している。
もしかしたらこの欠陥ミドルウェアを大々的に売り出したいのかもしれない。そして**の機種に実際に使っていますと宣伝したいのかもしれない。
そのために製品自体がしょぼくなっては本末転倒だろうに。世の中には論理思考ができない人間が多い。
だがこれが球突きのように次のトラブルを引き起こすことになる。
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