第25話 ピピピピ
次の仕事は音源の組込みだ。
BGMや効果音を映像場面に合わせて組み込むのだ。
この音源データの提供が遅れている。遅れれば遅れるほど最終工程が地獄になる。締め切りは絶対に延びないのだ。そして最終工程はウチなのだ。
K主任にこの遅れを指摘した。デザイン部門と何かを相談していたが一週間も経つと音源データが送られてきた。
一週間で出して来るとは優秀ではないかと感心しながら音源を聞いてみる。
ピピピピ・・。すべて同じ電子音が入っていた。もちろんBGMでもなければ効果音ですらない。
音源データの七割がピピピピで埋まっている。
これで向こうは期日までに音源データを出したことにしたらしい。後で修正版を送るからと言われた。
もちろん最終版が来たときにもう一度全部を入れることになる。完全なる二度手間だ。これなら音源データを貰わない方が良かった。
K主任に抗議するも困った顔をするだけだ。あのねぇ、アホ主任、向こうに怒らなくちゃ駄目じゃない。こちらの仕事を無意味に増やされただけなんだよ。あんた、分かっているのかい?
どいつもこいつも、いつもいつも困った顔をするだけで何一つ解決策を出さない。その困った顔はS課長もやったし、M部長もやった。やらなかったのはクソTだけだよ。あのアホは困った顔の代わりにお前が悪いんだと決めつけた。
K主任が何も手を打たないので仕方なしにこの二度手間をすべてやった。
ああ、アホは何をやらせても使い物にならない。
うう、人が殺したい物を壊したい。
それが済むと客先から百のイベントというものが送られてきた。
色々と達成する条件によっておまけがつくというものだ。
ざっと見て、工数は3か月と見積もった。
締め切りから考えてすぐに始めないと間に合わないとK主任に言うと、やっぱり困った顔をするだけであった。
代わりに前記の音源データ組込みを命じてきた。二度手間仕事をやっている暇はないのに。
いよいよ締め切り一か月前になって、K主任は百のイベントを組み込めと命令を出してきた。
「三か月はかかるって言ったでしょ。どうするんですか。これ」
K主任は困った顔をするだけ。どうしてみんな私の前で困った顔をすれば問題が解決すると思っているんだろう。私は彼らの親でもなければ子でもないのに。
ああ、もうクソ野郎。
俺は月50、つまり給料25で雇われているただのバイトだぞ。いつもいつも無茶ぶりするんじゃねえ。クソども。
自分の心が荒れているのが分かる。
・・山ほど残業をして何とか間に合わせた。もちろんすべてタダ残である。
残業代なんか払っていたらウチ潰れてしまうからね。K主任がなぜか誇らしげに言う。
お前は経営者のつもりか?
金がないのはお前のような無能が給料泥棒しているからだろ?
言いたくても言えない。向こうの方が立場が強い。
ああ、もう。こうして歳を取って死ぬまで安月給でこき使われて他人の失敗のケツ拭きをして死ぬのが私の運命なのか?
神仏は試練を与えるというがそれは違う。ただ単に力を持つ者にありがちなことで、彼らはサディストなのだ。
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