第23話 ベルセルク

 今度はH主任の下で新機種の開発が始まった。

 全責任者はAさんだが、滅多にこの作業場には来ない。営業がメインなのだ。


 やるべき仕事は映像関係の新エフェクトの追加である。これらのエフェクトは動画ソフトが持っていて、それを存分に使って元となる動画を組んでいる。もしここでそれと同じエフェクトが作れなければとても厄介なことになる。

 どうしてこの人たちは毎回綱渡りとなるようなことをしてしまうのだろう。

 そしてどうして私はいつもはした金でそれらの尻ぬぐいをさせらるのだろう。人間たちはそんなときにいつもこういう。お前がいて(俺は)ラッキー。

 せめて感謝の言葉一つ貰えたならば。だがそれは見果てぬ夢。


 ターゲット・ワン。

 画面を半分に割って上下を入れ替える。アナログテレビの同期ハズレを模したものだ。

 この実現は簡単だ。画面を二つに切り、上下を反転して再構築する。


 ターゲット・ツー。

 画面にノイズに似たものを入れる。

 これも簡単だ。乱数を作り出して、それに合わせて横線を入れて上下させる。


 ターゲット・スリー。

 画面を波うたせる。

 画面を無数の短冊型に切り分け、表示開始点を三角関数に合わせて上下させる。三角関数の角度と半径を変化させながら行うと、見た目が気持ちの良い波になる。

 ついでに左右方向にも波打たせるコードも作る。

 これには恐ろしく強力な画像演算プロセッサを持っているこのハードウェアでも青息吐息という有様になった。細分化は3ピクセルが限度と知る。

 波打ち幅と周期を制御するインタフェースを作り、ドキュメントもつけて新人のガス男T君に渡すと嫌な顔をされた。

 いや、君、こういった下働きが新人の仕事だよ?

 彼は努力型の仕事が苦痛で堪らないらしく、10秒毎にため息をついて周囲を毒ガスで汚染し続けている。泣きたいのはこっちだよ。おい。


 ターゲット・フォー。

 ブラー。画面をぼかす効果だ。

 ウィキを見てどんな効果なのかを確かめる。

 モーション・ブラーを再現しようとして画面を高速で上下左右に動かしてみる。駄目だ。カクカクと動くのが目にはっきりと見えてしまう。

 ブラーの種類は指定されていないのでズーム・ブラーに挑戦する。画面サイズを拡大しながら幾つもの画像を半透明状態で重ねる。

 これはうまくいった。

 よし、命じられたのはズーム・ブラーだったということにしよう。


 ここまで四効果を新たに組み込むのに約一週間。

 そう悪くない成果だろ?


 今回作っているのはパチスロ・ベルセルクだ。主人公ガッツの顔を朝から晩まで見ながら仕事をすることになった。

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