第18話 作業の風景

 パチンコ機の開発の現場は分業化されている。

 映像と音声はメーカーのデザイナーが作っている。ここからデータが流れて来る。

 それを受けて作業するこちらの専任プログラマが三人ほど。動画データをこちらで使えるようなデータに変えてシステムに流し、元画像と同じになるかどうかを確認する。


 作業員の一人の太っちょちゃんが呼びつける。目の前で再現した動画を流して一言。

「ネ!」

 いったい何がネ!なのかさっぱり分からない。

 私は元の動画を知らないのだからどこが違うのか分からないのも当然なのだが、この人にはそれが思いつかないらしい。単純作業は人の知性を減退させる。

 要は画面のスムージング拡大の際に最後の1ステップの段階で画面が一気に最終サイズまで拡大するという現象だった。

 スムージングの初期値を少しいじって直す。


 この変換作業のとき、こちらが対応していない動画ソフトの機能が使われていたりすると大変なことになる。

 ちなみにこれは一回やられることになる。K主任が記述規約という形で使える動画機能を向こうに渡していた(はず)なのだが、それを無視して作られたことがあるのだ。今更すべての動画を作りなおすわけにはいかないので、結果として新機能を組み込むことになった。

 ところが動画ソフトのメーカーは内部でどのような処理をしているのかは一切公開していない。だからこちらとしては推測と試行錯誤で正しく再現されるように組んでいくしかない。

 これには死ぬほど苦労した。

 会議でヘルプを求めるも、誰もその解決方法をしらない。

 そしてK主任の言葉は毎回同じ。

「何度も頼んだけどメーカー側が資料を出してくれなくて」

 クソの役にも立たないと思わず会議の面々の前で呟いてしまった。

 一人派遣で来ていたプログラマのKさんだけが、これが動けば正解というテストデータを作ってくれた。そこでそれを解析して逆にアルゴリズムを推測した。結果として出てきた3種類のアルゴリズムをそれぞれ実装して、何とか正解を見つけ出した。


 こうして変換作業が進み、さらにその先に進むとテストを行うバイトが何人か加わる。この会社では声優や役者のタマゴがバイトに来ていた。どれも苦学生だ。


 描画システムが安定すると、私の仕事は変わった。

 引き続きパチンコ機用のギミックの制御が命令された。

 球が入賞したときに、ギミックのついた棒を上げ下げすると、それに連動して役物が左右に展開する。ロボットの顔が開いたり閉じたりするのを見るのは楽しい。

 ステッピングモータを動かしてこれを行うのだ。役物には相当な重さがあるので、動作初めにはモータを強く動かし、止まる寸前には弱める処理が必要だ。でないと派手に役物が縁に激突して自壊してしまう。

 さらには上に上げるときは重力に逆らうが、下りるときは逆に重力で加速されるので緩めないといけない。早く動き過ぎると摩擦熱がしゃれにならない。

 動きの速さも重要だ。速すぎると脱調という現象を起こし、ステッピングモーターの最大の特徴である正確さが台無しになる。

 実際の役物の位置と内部で覚えている位置のずれも泣きどころだ。これには初期化時にモーターに無理をさせて、位置を固定するやり方が一般的だ。

 テストで何度か動かしてみて、動作を調整する。完成したのでK主任に渡してメーカに戻して確認して貰う。

「いいですか。過熱しやすいので過剰な動作は禁止ですよ」

 よくK主任に言い含めておく。


 しばらく経つと、K主任がやってきて報告した。

「向こうで役物が火を噴いたそうです。連続動作できないようにストッパーをいれてくれとのことです」

 まるでこちらが悪いとの口調だ。

 いや私言いましたよね? 過熱するから慎重に動かせと。

 きっと聞き流したのだ。この人は。頭が悪いから客先に何を伝えるべきかも判断できなかったのだ。

 次からは注意書きは赤で印刷して役物にべったりと貼り付けよう。


 この人はダメだ。伝言係もマトモにできない。

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