第17話 またもや入院
作業をしているときにK主任が迂闊な動きをして、こちらの顔にその手が当たった。瞼の上から直撃である。
「あ、ごめん、大丈夫?」
訊いて来る。
もちろん、大丈夫じゃないです。
お馴染みの黒い蛇が目の中で踊る。眼底出血である。前回とは逆の側だ。
「明日から一週間入院します」
この後どうなるかもう決まっているので宣言しておく。
眼科に行って入院を決める。片目の中は黒い蛇だらけでもう見えない。
次の日から手術を受けて入院した。
眼球の中に細いバキュームを入れて黒い血の塊を吸引する。ついでに角膜も除去し、人工角膜に代える。
これで両目とも人工角膜になった。お陰でメガネが要らなくなる。
網膜剥離はしていないので、今度は座ったままで過ごせる。
入院中もノートパソコンを持ち込み、片目だけで仕事をする。
辛い一週間が過ぎ、ようやく退院した。
入院中の成果物をK主任に提出した。
後ほどAさんに言われる。
「会議でさ、M社長がキミが休んでいる分工賃をさっぴけと言ったんだよ。オレ、止めておいたから」
あれれ。K主任、何も伝えていないのか。入院中も仕事を進めたし、成果物も提出したのに。
あの人、自分が報告受けたのがどういう意味か分かっていなかったのか?
もしこれで給料を減らされたら、K主任を暴行罪で訴えて賠償請求するという手もあるが、当然ながらここでの仕事も続けることはできなくなるのでそれは悪手である。
結果として給料は減らされなかったけど、この会社では頑張って仕事を埋めても無意味だということが良く分かった。
次にもし入院するときは仕事なんかするものか。
どの会社もまったく仕え甲斐がない。武士は己を知る者のために死すというが、誰にも己を知って貰えない武士はどうすればよい?
この入院で医療保険でまた10万円ほど儲ける。
目の角膜を売って10万儲けたようなものである。実に最悪の気分だ。
あの除去した角膜はどうするのだろう。闇で売れば200万円ぐらいだから、意外と病院は裏では儲けているのかも知れない。
私の角膜を移植した人が私の運命を多少は受け継ぎますようにと祈りを捧げておく。
Aさんが強く言ったお陰で工賃を月50万まで上げて貰えた。これでも標準よりも10万低いが文句は言えないのだろうなと飲み込む。
私のように複雑なプログラムを正しく扱える者は他にはいないだろうに、この技術はいつも買いたたかれる。
不遇だ。
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